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・・・思慮のある見識のある人でも一度恋に陥れば、痴態を免れ得ない。この夜二人はただ嬉しくて面白くて、将来の話などしないで寝てしまった。翌朝お千代が来た時までに、とにかく省作がまず一人で東京へ出ることとこの月半に出立するという事だけきめた。おとよは・・・
伊藤左千夫
「春の潮」
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・・・ような人間、――勿論すっかり同じであるというのではありませんが、殆どこの磯九郎のような人間は、常に当時の実社会と密接せんことを望みつつ著述に従事したところの式亭三馬の、その写実的の筆に酔客の馬鹿げた一痴態として上って居るのを見ても分ることで・・・
幸田露伴
「馬琴の小説とその当時の実社会」