・・・も云々というような、こんな独創的な言葉を発明した日本ほど、実は猫になりたがり、杓子になりたがる人間の多い国はないのですから、全く皮肉極まる話で、いや、実にお話になりません。 みなさんは、日本を敗戦国にしたのは、軍閥と官僚だとお思いになっ・・・ 織田作之助 「猫と杓子について」
・・・こうと知ったら、定めし白髪を引ひきむしって、頭を壁へ打付けて、おれを産んだ日を悪日と咒って、人の子を苦しめに、戦争なんぞを発明した此世界をさぞ罵る事たろうなア! だが、母もマリヤもおれがこうもがきじにに死ぬことを風の便にも知ろうようがな・・・ 著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷 「四日間」
・・・といって正作は微笑し、「僕は毎日この道を往復しながらいろいろ考がえたが、発明に越す大事業はないと思う」 ワットやステブンソンやヱヂソンは彼が理想の英雄である。そして西国立志編は彼の聖書である。 僕のだまって頷くを見て、正作はさらに言・・・ 国木田独歩 「非凡なる凡人」
・・・科学的発明も、化学工業も、鉄道敷設も、電信も道路の開通も、すべてが、資本主義の下にあっては、戦争準備の目標に向って集中されている。それは直接間接にプロレタリアの生活に重大な関係を持っている。反戦文学の恒常性はこゝに存在する。資本主義制度が存・・・ 黒島伝治 「反戦文学論」
・・・で、高慢税を払わせる発明者は秀吉ではなくて、信長の方が先輩であると考えらるるのであるが、大にその税法を広行したのは秀吉である。秀吉の智謀威力で天下は大分明るくなり安らかになった。東山以来の積勢で茶事は非常に盛んになった。茶道にも機運というも・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・実にネ、大発明というものはつまらない所から起るもので、僕の大真理は道から出たのサ。僕が田舎に居て小学校へ通う時分にネ、草の茂ッた広い野を一ツ越して行くのサ。毎日毎日通学するのだがネ。爰に或朝偶然大真理を発見する種になる事に出逢ッたのサ。ちょ・・・ 幸田露伴 「ねじくり博士」
・・・アイスキュロスは、舞台上で同時に用い得る声の数が限られている事に依て、そこで止むなく、コオカサスに鎖ぐプロメトイスの沈黙を発明し得たのであります。ギリシャは琴に絃を一本附け加えた者を追放しました。芸術は拘束より生れ、闘争に生き、自由に死ぬの・・・ 太宰治 「鬱屈禍」
・・・おしゃれの本能というものは、手本がなくても、おのずから発明するものかも知れません。 ほとんど生れてはじめて都会らしい都会に足を踏みこむのでしたから、少年にとっては一世一代の凝った身なりであったわけです。興奮のあまり、その本州北端の一小都・・・ 太宰治 「おしゃれ童子」
・・・彼のような抽象に長じた理論家が極めて卑近な発明の審査をやっていたという事は面白い事である。彼自身の言葉によるとこの職務にも相当な興味をもって働いていたようである。 一九〇五年になって彼は永い間の研究の結果を発表し始めた。頭の中にいっぱい・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・人力車は玩具のように小く、何処となく滑稽な形をなし最初から日本の生活に適当し調和するように発明されたものである。この二つはそのままの輸入でもなく無意味な模倣でもない。少くとも発明という賛辞に価するだけに発明者の苦心と創造力とが現われている。・・・ 永井荷風 「銀座」
出典:青空文庫