・・・ 四三 発火演習 僕らの中学は秋になると、発火演習を行なったばかりか、東京のある聯隊の機動演習にも参加したものである。体操の教官――ある陸軍大尉はいつも僕らには厳然としていた。が、実際の機動演習になると、時々命令に間・・・ 芥川竜之介 「追憶」
・・・ 谷間や、向うの傾斜面には、茶色の鬚を持っている男が、こっちでパッと発火の煙が上ると同時に、バタバタ倒れた。「今度は誰れが倒れるだろう……女か、子供か?――それともこっちのカーキ色の軍服だろうか!」 通訳は子供のようにおどおどし・・・ 黒島伝治 「パルチザン・ウォルコフ」
・・・の労を煩わせば姉さんにしかられまするは初手の口青皇令を司どれば厭でも開く鉢の梅殺生禁断の制礼がかえって漁者の惑いを募らせ曳く網のたび重なれば阿漕浦に真珠を獲て言うなお前言うまいあなたの安全器を据えつけ発火の予防も施しありしに疵もつ足は冬吉が・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
・・・最初の震動は約十四秒つづいたのですが、それから、ものの三分とたたないうちに、神田以下十二区にわたって四十か所から発火したのです。本所や浅草では、十二時におのおの十二、三か所からもえ上ったくらいです。それから一分おき二分おきに、なおどんどん方・・・ 鈴木三重吉 「大震火災記」
・・・映写室から発火したという話でした。そうして、映画見物の小学生が十人ほど焼死しました。映写技師が罪に問われました。過失傷害致死とかいう罪名でした。子供にも、どういうわけだか、その技師の罪名と運命を忘れる事が出来ませんでした。旭座という名前が「・・・ 太宰治 「五所川原」
・・・火の伝播がいかに迅速であるとしても、発火と同時に全館に警鈴が鳴り渡りかねてから手ぐすね引いている火災係が各自の部署につき、良好な有力な拡声機によって安全なる避難路が指示され、群集は落ち着き払ってその号令に耳をすまして静かに行動を起こし、そう・・・ 寺田寅彦 「火事教育」
・・・燃料を満載してある上に、しかも発火すると同時に出口が人間で閉塞し、その生きた栓が焼かれる仕掛けになっているからである。山火事の場合は居合わす人数の少ないだけに、損害は大概莫大ではあるが、金だけですむ。 デパートアルプスの頂上から見おろし・・・ 寺田寅彦 「銀座アルプス」
・・・胴の間の側に立っているこれもスマートな風体の男が装填発火の作業をする役割である。 艫の方の横木に凭れて立っている和服にマント鳥打帽の若い男がいちばんの主人株らしい、たぶん今日のプログラムを書いてあるらしい紙片を手に持って立っている。その・・・ 寺田寅彦 「雑記(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・高等小学校の理科の時間にTK先生という先生が坩堝の底に入れた塩酸カリの粉に赤燐をちょっぴり振りかけたのを鞭の先でちょっとつつくとぱっと発火するという実験をやって見せてくれたことを思い出す。そのとき先生自身がひどく吃驚した顔を今でもはっきり想・・・ 寺田寅彦 「追憶の冬夜」
・・・新聞記事は例によってまちまちであって、感傷をそそる情的資料は豊富でも考察に必要な正確な物的資料は乏しいのであるが、内務省警保局発表と称する新聞記事によると発火地点や時刻や延焼区域のきわめてだいたいの状況を知ることはできるようである。まず何よ・・・ 寺田寅彦 「函館の大火について」
出典:青空文庫