・・・が、とにかく婆さんの話によれば、発頭人のお上は勿論「青ペン」中の女の顔を蚯蚓腫れだらけにしたと言うことです。 半之丞の豪奢を極めたのは精々一月か半月だったでしょう。何しろ背広は着て歩いていても、靴の出来上って来た時にはもうその代も払えな・・・ 芥川竜之介 「温泉だより」
・・・念の為に断って置くが、この発頭人は僕ではない。僕は唯先輩たる斎藤さんの高教に従ったのである。 発行所の下の座敷には島木さん、平福さん、藤沢さん、高田さん、古今書院主人などが車座になって話していた。あの座敷は善く言えば蕭散としている。お茶・・・ 芥川竜之介 「島木赤彦氏」
・・・お敏を隠した発頭人。まずこいつをとっちめて、――と云う権幕でしたから、新蔵はずいと上りざまに、夏外套を脱ぎ捨てると、思わず止めようとしたお敏の手へ、麦藁帽子を残したなり、昂然と次の間へ通りました。が、可哀そうなのは後に残ったお敏で、これは境・・・ 芥川竜之介 「妖婆」
・・・実はあの発頭人の得業恵印、諢名は鼻蔵が、もう昨夜建てた高札にひっかかった鳥がありそうだくらいな、はなはだ怪しからん量見で、容子を見ながら、池のほとりを、歩いて居ったのでございますから。が、婆さんの行った後には、もう早立ちの旅人と見えて、伴の・・・ 芥川竜之介 「竜」
出典:青空文庫