・・・ どうせ朝まで客は拾えないし、それにその日雨天のため花火は揚らなかったが廓の創立記念日のことであるし、なんぞええことやるやろと登楼を薦めた。むろん断ったが、十八にもなってと嘲られたのがぐっと胸に来て登楼った。長崎県五島の親元へ出す妓の手・・・ 織田作之助 「雨」
・・・いや、わざと汚ない楼をえらんで、登楼した。そして、自分を汚なくしながら、自虐的な快感を味わっているようだった。 しかし、彼とても人並みに清潔に憧れないわけではない。たとえば、銭湯が好きだった。町を歩いていて銭湯がみつかると、行き当りばっ・・・ 織田作之助 「四月馬鹿」
・・・図に乗ってまくし立てるようだが、登楼して、おいらんと二人でぐっすり眠って、そうして朝まで、「ひょんな事」も「妙な縁」も何も無く、もちろんそれゆえ「恋愛」も何も起らず、「おや、お帰り?」「そう。ありがとう。」と一夜の宿のお礼を言ってそのまま引・・・ 太宰治 「チャンス」
・・・十二月の十日ごろまでは来たが、その後は登楼ことがなくなり、時々耄碌頭巾を冠ッて忍んで店まで逢いに来るようになッた。田甫に向いている吉里の室の窓の下に、鉄漿溝を隔てて善吉が立ッているのを見かけた者もあッた。 十 午時過・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
出典:青空文庫