・・・これは、取りも直さず、これらの諸作家が平常の如何に関らず戦争に際して、動員され得るだけの素地を持っていたことを物語るものである。岩野泡鳴には凱旋将軍を讃美した詩がある。 自然主義運動に対立して平行線的に進行をつゞけた写生派、余裕派、低徊・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
・・・社会的モラルの問題となし得る先行的な事実、新たな芸術創造のための素地の探求、理解の具体性として、生活事情と色感とのなまなましい関係が今日の問題としていかに深められているか、と考えるのであった。 二 こういう・・・ 宮本百合子 「芸術が必要とする科学」
・・・謂わばそれらの賞によって文学を産む素地の萎縮を救い得るかのように考えた既成作家の文学観が問わるべきであろう。社会の現実の内で所謂知識階級と民衆との生活の游離が純文学を孤立化せしめた動機であることに疑ないのである。 ヒューマニズムの問題に・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・そして、現実の文壇処世としては、一般の教養的素地の未熟さを逆に反映してのこけおどしの教養ぶりも出現した。その意味では、この時期における教養尊重の風は、漱石時代より萎靡したものであったと云い得るのである。 幾変転を経て、今日、私たち作家は・・・ 宮本百合子 「作家と教養の諸相」
・・・「そして老舗となる素地を蓄えたのである」「戦後のハッタリ精神とヤミの没落は文学の面でも象徴的であった」火野葦平は文学に対する同人雑誌の任務、出版関係が「昔にかえった」ことを慶祝している。 戦後の出版界の空さわぎは、出版社というものが、つ・・・ 宮本百合子 「しかし昔にはかえらない」
・・・日本の文学精神が変らずにはすまない素地は歴史のこの辺のところに在るかもしれないのだ。 こんにちの空虚であって、しかもジャーナリズムの上での存在意欲ばかりはげしい文学現象を、現代人の「楽しみというものは、だんだん贅沢になるから、小説だって・・・ 宮本百合子 「「下じき」の問題」
・・・ そのような文学の動きは、新しい社会的な素地から作家と作品を成長させて来たばかりでなく、当時既に作家としてある程度の活動と業績を重ねた作家たちをも、各自の角度に従ってこの文学運動の中に引き入れた。先に触れた藤森成吉、秋田雨雀のほか片岡鉄・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・そこでその手が血に染んでいないことだけはたしかな永井荷風の作品、谷崎潤一郎の作品などが、当時の営利雑誌に氾濫し、ある意味で今日デカダンティズム流行の素地をつくった。そして、戦争の永い年月、人間らしい自主的な判断による生きかたや、趣味の独立を・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
・・・それは人間的な素地として、其々の専門部門への特別な天稟とともに備えている。其々の時代の制約と闘うということも共通である。苦心するのも共通である。「ロダンの言葉」という二巻の本がある。これが、ロダンの芸術を益々ふかく理解させるばかりか、後・・・ 宮本百合子 「「青眉抄」について」
・・・君子道徳と結びつき得る素地は、ここに十分に成立しているのである。 この道徳の立場は、「敵を愛せよ」という代わりに「敵を敬せよ」という標語に現わし得られるかもしれない。「信玄家法」のなかに、敵の悪口いうべからずという一項がある。敵をののし・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫