・・・ たしかに、軍部は国民を皆殺しにしようと計画していたのだが、聖上陛下が国民の生命をお救い下すったのであると、私は思った。 知人の家で話をしていると、表を子供たちが、「――兵隊さんのおかげです……」 という歌を、歌いながら通っ・・・ 織田作之助 「終戦前後」
・・・「そんなことをしてみろ、そのすきに皆殺しになるばかりだ!」「逃げろ! 逃げろ!」 フョードル・リープスキーという爺さんは、二人の子供をつれて逃げていた。兄は十二だった。弟は九ツだった。弟は疲れて、防寒靴を雪に喰い取られないばかり・・・ 黒島伝治 「橇」
・・・ 見たところ、彼は、日本の兵タイなど面倒くさい、大砲で皆殺しにしてしまいたいと思っているらしかった。 それが目的格をとっかえて表現されているのだった。 中隊長は、通訳からその意味をきくと、じろりと、いかつい眼で暫らくその男を睨み・・・ 黒島伝治 「パルチザン・ウォルコフ」
・・・ 過激派討伐を命ぜられた限り、出来るだけ派手な方法を以て、そこらへんにいる、それに類した者をも鏖にしなければならない。こういう場合、派手というのは、残酷の同意語であった。不明瞭な点を残さず、悉くそれを赤ときめて、一掃してしまえば功績も一・・・ 黒島伝治 「パルチザン・ウォルコフ」
・・・そうして復讐を計画し、詭計によって賊をおびき寄せておいて皆殺しにする。後日再び奥州から大軍の将として上洛する途上この宿に立寄り懇ろに母の霊を祭る、という物語を絵巻物十二巻に仕立てたものである。 絵巻物というものは現代の映画の先祖と見るこ・・・ 寺田寅彦 「山中常盤双紙」
出典:青空文庫