・・・ 河内山は、ちょいと煙管の目方をひいて見て、それから、襖ごしに斉広の方を一瞥しながら、また、肩をゆすってせせら笑った。 四 では、煙管をまき上げられた斉広の方は、不快に感じたかと云うと、必しもそうではない。・・・ 芥川竜之介 「煙管」
・・・ 二十五年前には日本の島田や丸髷の目方が何十匁とか何百匁とかあって衛生上害があるという理由で束髪が行われ初め、前髪も鬢も髦も最後までが二十七年、頼政の旗上げから数えるとたった六七年である。南朝五十七年も其前後の準備や終結を除いた正味は二・・・ 内田魯庵 「二十五年間の文人の社会的地位の進歩」
・・・口の先きで喋べる我々はその底力のある音声を聞くと、自分の饒舌が如何にも薄ッぺらで目方がないのを恥かしく思った。 何を咄したか忘れてしまったが、今でも頭脳に固く印しているのは、その時卓子の上に読半しの書籍が開いたまま置かれてあったのを何で・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・その時女房の体が、着物だけの目方しかないのに驚いた。女房は小鳥が羽の生えたままで死ぬように、その着物を着たままで死んだのである。跡から取調べたり、周囲の人を訊問して見たりすると、女房は檻房に入れられてから、絶食して死んだのであった。渡された・・・ 著:オイレンベルクヘルベルト 訳:森鴎外 「女の決闘」
・・・高瀬はその鉄の目方の可成あるガッシリとした柄のついた鍬を提げて、家の裏に借りて置いた畠の方へ行った。 不思議な風体の百姓が出来上った。高瀬は頬冠り、尻端折りで、股引も穿いていない。それに素足だ。柵の外を行く人はクスクス笑って通った。とは・・・ 島崎藤村 「岩石の間」
・・・お母さんは七十近いけれど、目方は十五、六貫もそれ以上もあるような随分肥ったお方です。「大丈夫だ、大丈夫。」と言いながら、そろそろ梯子を上り始めて、私はその親子の姿を見て、ああ、あれだから、お母さんも佐吉さんを可愛くてたまらないのだ。佐吉・・・ 太宰治 「老ハイデルベルヒ」
・・・その時女房の体が、着物だけの目方しかないのに驚いた。女房は小鳥が羽の生えた儘で死ぬように、その着物を着た儘で死んだのである。跡から取調べたり、周囲の人を訊問して見たりすると、女房は檻房に入れられてから、絶食して死んだのであった。渡された食物・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・影と幽霊には目方はないのである。しかし映画の観客は各自の想像によってそれぞれの映像に相応する質量を付加し割り当てながら見て行く。それで、もしも映画のトリックによって一人の男が三井寺の鐘を引きちぎって軽々と片手でさし上げれば、その男は異常な怪・・・ 寺田寅彦 「映画の世界像」
・・・窺われ、美食家や異食家がどんなものを嗜んだかが分かり、瑣末なようなことでは、例えば、万年暦、石筆などの存在が知られ、江戸で蝿取蜘蛛を愛玩した事実が窺われ、北国の積雪の深さが一丈三尺、稀有の降雹の一粒の目方が八匁五分六厘と数字が出ている。好色・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
・・・左側にあるのがクリミヤから持ってきたいわゆるセバストポールの鐘、右側のがここのブールドン目方が幾キログラムある、中にさがった舌がいくらいくらと説明する。鐘をゆり動かす仕掛けを見せてくれる。そばにあった鉄の棒でガンガンと軽く鳴らして見せました・・・ 寺田寅彦 「先生への通信」
出典:青空文庫