・・・が、偉大に直面することは有史以来愛したことはない。 広告「侏儒の言葉」十二月号の「佐佐木茂索君の為に」は佐佐木君を貶したのではありません。佐佐木君を認めない批評家を嘲ったものであります。こう言うことを広告するのは「文芸春・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・ かねて、外套氏から聞いた、お藻代の俤に直面した気がしたのである。 路地うちに、子供たちの太鼓の音が賑わしい。入って見ると、裏道の角に、稲荷神の祠があって、幟が立っている。あたかも旧の初午の前日で、まだ人出がない。地口行燈があちこち・・・ 泉鏡花 「古狢」
・・・私が、曾て、ロシア人の話を聞いて、感奮した如く、もっとそれよりも、赤裸なる、悲痛な人生に直面して、限りない興奮を感じ、筆を剣にして戦わんとする、斯くの如き真実なる無産派の作家を私は、親愛の眼で眺めずにはいられないのであります。――十月十九日・・・ 小川未明 「自分を鞭打つ感激より」
・・・ いま、科学主義万能によって、いちじるしく、軟柔性を欠き、硬直したる社会運動に、また芸術運動に、直面して、真に思い出さるゝことは、二たび、当年のナロードの精神に帰れということではあるまいか。・・・ 小川未明 「純情主義を想う」
・・・そして、一個の死に直面した人間が、大きな戦争の動きのなかに病気に苦しみながら死んで行く。そこに、人生を暗示しようとした。客観的にあったことを、あったことゝして作品の上に再現しようとした。現実をあるがまゝに描くのである。結局、それも花袋の場合・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
・・・そうならないためには、今から教育者の地位にある当局者は、この眼前の生きた現象を徒に回避する代りに、これに直面してもう少し積極的な手段を取るべきではないか。あえて本誌の読者の一考を煩わしたいと思った次第である。・・・ 寺田寅彦 「教育映画について」
・・・たとえば実験的科学の研究者がその研究の対象とする物象に直面している際には、ちょうど敵と組み打ちしているように一刻の油断もならない。いつ何時意外な現象が飛び出して来るかもわからないのみならず、眼前に起こっている現象の中から一つの「事実」を抽出・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・もしこの浦和充子の裁判に当った判事、検事が御自身そのような場合に直面された場合に、大衆の要求として行動した人たちこそ判検事が強調した社会問題そのものを具体的に解決しようとして行動しているのだと、それを禁じ、法律によって裁判することの自己矛盾・・・ 宮本百合子 「浦和充子の事件に関して」
・・・自分の体力、智力、自分とひととの経験の総和についての知識とその実力とが、むき出しな自然の動きと直面し対決してゆく、その味わいでの山恋いではないだろうか。槇有恒氏の山についての本はどんなその間の機微を語っているか知らないけれど、岩波文庫のウィ・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
・・・「新しい散文精神は現実当面の問題――アンティ文化の嵐に直面してよくも悪くも結論を急がずに、じっと忍耐しながら対象を分析してゆく精神結論を急がぬ探究精神こそ」現代作家にとって何より必要なことではないのかというのがこの散文精神の骨子である。武田・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
出典:青空文庫