・・・花から取った香水や、肌色のスメツ白粉や、小指のさきほどの大きさが六ルーブルに価する紅は、集団農場の組織や、労働者の学校や、突撃隊の活動などとは、およそ相反するものだ。それをわざわざ持ちこんで行くのは意味がなければならなかった。社会主義的社会・・・ 黒島伝治 「国境」
・・・ この一見相反する二つの命題は実は一つのものの互いに対立し共存する二つの半面を表現するものである。この見かけ上のパラドックスは、実は「あたま」という言葉の内容に関する定義の曖昧不鮮明から生まれることはもちろんである。 論理の連鎖のた・・・ 寺田寅彦 「科学者とあたま」
・・・ 科学者と芸術家が別々の世界に働いていて、互いに無頓着であろうが、あるいは互いに相反目したとしたところが、それは別にたいした事でもないかもしれない。科学と芸術それぞれの発展に積極的な障害はあるまい。しかしこの二つの世界を離れた第三者・・・ 寺田寅彦 「科学者と芸術家」
・・・例えば従順と倨傲と、あるいは礼譲とブルタリティと、二つの全く相反するものが互いに密に混合して、渾然としたものに出来上がったとでも云ったらよいか。これが邪魔になって、私はどうしてもこの階級の人達に対して親しみを感じる訳に行かない。 それで・・・ 寺田寅彦 「雑記(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・彼の郷閭の人々のうちには彼の学者として立つ事が彼の Lord としての生活と利害の相反することを恐れるものもあった。この学位を得た後に二人の友人とイタリア旅行をしたが、美術見物には大した興味がないようであった。 一八六五年の四月に始めて・・・ 寺田寅彦 「レーリー卿(Lord Rayleigh)」
・・・それらの相反するものが融合調和し相互に扶助し止揚することによって一つの完全なる全体を合成し、そうして各因子が全体としての効果に最も有効に寄与しているのでなければならない。こういうわけであるから、連句のメンバーは個性の差違を有すると同時に互い・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・しかしオイケンはこの矛盾はどっちかに片づけなければならず、また片づけらるべきものであるかのごとき語気で論じていたように記憶していますが――すなわちそういうように相反する事を同時に唱えておっては矛盾だから、モッと一纏めにして、意味のある生活を・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
・・・同じく形而上学的といっても、フィヒテ哲学とデカルト哲学とは相反する両方向に立つのである。矛盾的自己同一的なる、現実の自己の自覚の立場、即ち絶対否定的自覚の立場に返って、デカルト哲学が批判せられなければならぬとともに、フィヒテ哲学も批判せられ・・・ 西田幾多郎 「デカルト哲学について」
・・・政府は、果して論者と思想の元素を殊にして、その方向まったく相反するものか。政府は、前にいえる廃藩置県以下の諸件を慊とせずして、論者の持張する改進の旨とまったく相戻るものか。あるいはかりに政府をして改進を悦ばざるものとするも、この事物の変革、・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・だ自から信じ自から楽しみ、その道を達するに汲々たれば、人またこれに告ぐるに新聞をもってする者少なく、世間の情態、また何様たるを知らず、社中自からこの塾を評して天下の一桃源と称し、その景況、まったく世と相反するに似たり。 然りといえども、・・・ 福沢諭吉 「中元祝酒の記」
出典:青空文庫