・・・又は所謂家庭を守る、ということの真の意義、真に聰明な洞察は果してどういうところにあるのであろうかということについての、真面目な省察を促がされるところにあると思う。世俗的なかためかたでは、現実の推移がもたらす主観的な幸、不幸はふせげない。終極・・・ 宮本百合子 「ジャンの物語」
・・・ そういうふうにつきつめてくると『新日本文学』が、これまで社会主義的リアリズムの問題について、その歴史的省察ならびに今日での民主主義文学との関係について、系統的に詳細に解明や研究をあまりしてきていないことについて、考えなおす必要が感じら・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・ 何の力にすがって、刻々の自分の殼を破ってゆくかと云えば、人生的文学的な自己省察であり、そのようなきびしいたゆみない自己省察は人間の生きつづける歴史の継続としてのこの人生と文学とに期するところがなければ生じるものではないであろう。大いに・・・ 宮本百合子 「地の塩文学の塩」
・・・彼等はどのように自分の置かれた立場を理解し、省察し、批判したであろうか。 日本の当局は、若い精神とその洞察力とを極度に恐れた。通信はやかましく検閲され、帰還するとき日記をつけていたものはとり上げられて焼かれた。今日、わたし共は、愛する若・・・ 宮本百合子 「「どう考えるか」に就て」
・・・トルストイが彼の貴族地主としての生活環境の中で、結婚と家庭生活の実体を厳しく省察したとき、人道主義的な立場からそれを懐疑したのは当然であった。彼は一組の男女が人類的な奉仕のためにどんな努力をしようともしないで、一つの巣の中にからまりあって、・・・ 宮本百合子 「人間の結婚」
・・・いと感じ、下等だ、と感じるその感じかたについて、どこまで過去の儒教的な教育ののこりが自身の心持の底に作用しているか、所謂文人的教養の趣味が評価に際してつよく影響しているかということなどについては、一向省察がめぐらされていないところも、当時の・・・ 宮本百合子 「風俗の感受性」
・・・我々は、平静に、人としてその方面に対する自己の傾向、年齢の及ぼす影響、圏境等を省察し、自ら支配し得るだけ心の自由を持ちたいものである。殊に、社会生活の実力に乏しい女性が、多くの場合その結果を自己の力では到底回収し得ない、或る瞬間、或る期間の・・・ 宮本百合子 「深く静に各自の路を見出せ」
・・・素朴な心は解釈において単純であり、省察において粗雑である。しかしその本能的な直覚においては内生の雑駁な統一の力の弱い文明人よりはるかに鋭いのである。恐らく美に対するその全存在的な感激において、当時の我々の祖先はその後のどの時代の子孫よりも優・・・ 和辻哲郎 「偶像崇拝の心理」
・・・ しかしこの直接印象の希薄は、想像力の集中と、省察の緊張とによって、ある程度まで救うことができる。そうしてそれは我々日本人が世界的潮流に遅れないために不断に努力すべき所である。 ヨーロッパ人は今異常に苦しんでいる。日本人はその苦しみ・・・ 和辻哲郎 「世界の変革と芸術」
・・・この事は不断に厳密な自己省察を必要とするのであるが、先生はこの点について非常に注意を払っていた。そうしてこの心がけがやがて人生全体に対して公平無私であろうとする先生の努力となって現われた。五 先生が偏屈な奇行家として世間から・・・ 和辻哲郎 「夏目先生の追憶」
出典:青空文庫