・・・是れ亦我輩の等閑に看過せざる所のものなり。 右第一条より第二十三条に至るまで、概して我国古来の定論に反するのみならず、前には旧女大学の条々を論破し去て、更らに新女大学の新主義を唱うることなれば、新旧方円相容れずして世間に多少の反対論・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・施し、一時、商況の不景気を見れば、その回復の法をはかり、敵国外患の警を聞けばただちに兵を足し、事、平和に帰すれば、また財政を脩むる等、左顧右視、臨機応変、一日片時も怠慢に附すべからず、一小事件も容易に看過すべからず。政治の働、活溌なりという・・・ 福沢諭吉 「政事と教育と分離すべし」
・・・学育もとより軽々看過すべからずといえども、古今の教育家が漫に多を予期して、あるいは人の子を学校に入れてこれを育すれば、自由自在に期するところの人物を陶冶し出だすべしと思うが如きは、妄想のはなはなだしきものにして、その妄漫なるは、空気・太陽・・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
・・・我輩は常に世の道徳論者の言を聞き、論者が特にこの大切なる一点をば軽々看過してあたかも不問に附する者多きを見て窃かに怪しむのみか、その無識を冷笑するほどの次第なれば、大いに婦人の地位を推してこれを高処に進め、以て男子に拮抗せしめんとするの考案・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・この点に就ては我輩も氏の事業を軽々看過するものにあらざれども、独り怪しむべきは、氏が維新の朝に曩きの敵国の士人と並立て得々名利の地位に居るの一事なり(世に所謂大義名分より論ずるときは、日本国人はすべて帝室の臣民にして、その同胞臣民の間に敵も・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・こういうことを果して看過していいかどうかということについては、吾々は深く憂うるのである」。稲本錠之助弁護人は、フランス大革命当時の哲学者ジョセフ・ジューベールの言葉をひいて弁論した。「一体この事件がランプの光の前で検討されたものならばまだし・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・第三者から見ると、どうして、ああかと思う程、自然に、身について或る一特性が善用されているかと思うと、その一方では、何故あれが看過していられるだろうと思うような矛盾が、当然のことのように行われている。そこに、我々が或る国民の生活を観察するに、・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・われわれは知力の傾向に従って、特異な点を常に看過しようとするけれども、実際はすべてが全然特異なのである。 またわれわれは漠然と「顔」ということをいうが実際にわれわれが経験するのは個々別々な、特殊な人相であって一般的な「顔」ではない。人相・・・ 和辻哲郎 「自己の肯定と否定と」
・・・ここでも寺田さんは人々があたり前として看過している現象の中に数々の不思議を見出し熱心にそれを探究している。 寺田さんの探究心にとってはそのいずれが特に重大だという訳ではなかった。つまり寺田さんは自然現象、文化現象のいっさいにわたる探究者・・・ 和辻哲郎 「寺田寅彦」
・・・そうして彼の永い間の努力と苦心と功績とを一切看過した。私はそこに自分の愛の狭さを感じる。この種の心持ちがしばしば他人の製作に対して起こっているのではないかと、自分を憂えないではいられない。愛なき批評を呪うようになった私には、もはや気軽に他人・・・ 和辻哲郎 「転向」
出典:青空文庫