・・・て 送りても見んさめたる心カサ/\と落葉ふみつゝ思ひ見る 暗き中なる白き芽生へよ我部屋の天井にある雨のしみ 磐若のかほの恐ろしきかな何高が雨のしみとは思へども 頭の真上にあるが恐ろし幼き日ざれ書したる・・・ 宮本百合子 「短歌習作」
・・・丁度、月の光りに浸された原野の真上のところに、二流れ黒雲があった。細く長く、相対して二頭の龍が横わっている通りだ。左手の黒龍の腹の下に一点曇りなき月が浮かんでいる。やや小ぶりな右手の龍が、顎をひらき、その月を欲して咬み合う勢を示した。左手の・・・ 宮本百合子 「夏遠き山」
・・・世界史の頁がめくられようとして、その頁が丁度本の綴めの真上のところに来ているような刹那が、今年の暮れの感じである。来年という新しい頁の上に、どんな生活がくりひろげられてゆくか、そのことはまだはっきりと見えていない。しかし、何かおぼろげにその・・・ 宮本百合子 「働く婦人の新しい年」
・・・ 男の声が思いがけなくほんとうに思いがけなく二階から頭の真上におっこって来た。 妙にくねった形をした石の上に下駄を並べて階子をかけ上った。 障子はすっかりあけはなされて、前の時にもって来たバラがまだ咲いて居てうす青な光線が一っぱ・・・ 宮本百合子 「芽生」
・・・ 離れた草原で女たちが真上から日に照らされながら足を投げ出していた。子供がいれた胡麻粒みたいにその間をはねてる。路傍演説なんぞ聴く女はほとんどなかった。 池では貸ボートが浮いてる。一人や二人でのっているのはごく少い。五六人ずつで、水・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
・・・その脅威はその後の五年間に段々上昇して、いまではまるで地球の真上にいつ爆発するかもしれない脅威として漂っている。あきらかに恐慌が、人類社会におこっている。平和の問題、原子兵器禁止の問題を、こんにち、別の云いかたで表現すれば人類はたった二十世・・・ 宮本百合子 「私の信条」
出典:青空文庫