・・・着物を重ねても寒い秋寒に講壇には真裸なレオというフランシスの伴侶が立っていた。男も女もこの奇異な裸形に奇異な場所で出遇って笑いくずれぬものはなかった。卑しい身分の女などはあからさまに卑猥な言葉をその若い道士に投げつけた。道士は凡ての反感に打・・・ 有島武郎 「クララの出家」
・・・博士神巫が、亭主が人殺しをして、唇の色まで変って震えているものを、そんな事ぐらいで留めはしない……冬の日の暗い納戸で、糸車をじい……じい……村も浮世も寒さに喘息を病んだように響かせながら、猟夫に真裸になれ、と歯茎を緊めて厳に言った。経帷子に・・・ 泉鏡花 「神鷺之巻」
・・・創造する六日目の予感がある、p.179○皆がみな限界をもたず未知の世界に立っている p.179○彼は生を痛感することを希う p.169○原泉から飲むことを欲す p.176○彼等は生活を真裸となって感じ、生存の歓喜を痛感しよう・・・ 宮本百合子 「ツワイク「三人の巨匠」」
・・・芸術家は「自然が真裸になってその神髄を示すのやむなきにいたるまでは根気よく持ちこたえ」なければならぬ。そして「線というものは」「人間がそれによって物体に落ちる光の効果を説明する手段だ」とバルザックは考えた。或る芸術の中に外観がよく掴えられ、・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・ 龍江は、だが、男の結婚したことは知らず、ある夜、ふろの中で突然はげしい香におそわれ、真裸でこのような強い香をかぐのは、たいへん恥しいことだと思ううちに目がくらんで気が遠くなる。それが丁度男が花嫁の床に香水をまいた時だった。 棄てら・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・そこへ相役の一人が供先から帰って真裸になって、手桶を提げて井戸へ水を汲みに行きかけたが、ふとこの小姓の寝ているのを見て、「おれがお供から帰ったに、水も汲んでくれずに寝ておるかい」と言いざまに枕を蹴った。小姓は跳ね起きた。「なるほど。目が・・・ 森鴎外 「阿部一族」
出典:青空文庫