・・・これはたぶんまつ毛のためやまた眼球光学系の溷濁のために生ずるものかと思われる。それで、事によると「火の玉」の正体がこれであったかもしれないとも思われる。しかしこれだとすると、たいていは光芒射出といったようなふうに見えるのであって、どうも「火・・・ 寺田寅彦 「人魂の一つの場合」
・・・おそらく実際眼球が周期的に動くのではないかと思われる。ところが音響の場合には、これに相当するような錯覚を起こすことはむつかしい。それができるくらいなら耳も、目と同じようにクリクリ動かせるようになっているはずと思われる。 目が開閉自在であ・・・ 寺田寅彦 「耳と目」
・・・意識にこれだけの分化作用ができて、その分化した意識と、眼球と云う器械を結びつけて、この種の意識は眼球が司どるのだと思いつく。しばらく視覚の意識と眼球の作用を混同して云うと、昔し分化作用の行われぬうちは視力は必ずしも眼球に集中しておらなかった・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・Bはよく説明してもらいましたが、脳炎などの後、本当に失明してしまうのは、視神経が萎縮してしまうので、眼底をみれば神経の束が眼球に入ってきているところに細い血管が集っていて、それが独特なカーブを書いてそのカーブの深さで視神経が萎縮して低くなっ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
出典:青空文庫