・・・ 廂も、屋根も、居酒屋の軒にかかった杉の葉も、百姓屋の土間に据えてある粉挽臼も、皆目を以て、じろじろ睨めるようで、身の置処ないまでに、右から、左から、路をせばめられて、しめつけられて、小さく、堅くなつて、おどおどして、その癖、駆け出そうとす・・・ 泉鏡花 「星あかり」
・・・なんでもお前さんはその黒い目で、蛇が人を睨めるようにわたしを見ていて、わたしを化してしまったのだわ。今思って見ればわたしはお前さんにじりじり引き寄せられていたのだわ。両足を括って水に漬られているようなもので、幾らわたしが手を働かして泳ぐ積り・・・ 著:ストリンドベリアウグスト 訳:森鴎外 「一人舞台」
出典:青空文庫