・・・ 誰が与えられた時を知り、その動揺を知覚し得よう。けれども在る事は事実である。無くては居られない。持たずには居られない。その、神秘的な液体と倶に、人を産んだ「祖国の気分」も生きて居るのではないだろうか、私は、今更に背後の重さを感じずには・・・ 宮本百合子 「無題」
・・・それと同じように、余所目には痩せて血色の悪い秀麿が、自己の力を知覚していて、脳髄が医者の謂う無動作性萎縮に陥いらねば好いがと憂えている。そして思量の体操をする積りで、哲学の本なんぞを読み耽っているのである。お母あ様程には、秀麿の健康状態に就・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・我々は外形に現われたものを感覚し、知覚するとともに、この外形を象徴として現われて来る内部の生命を感得する。我々が自然を認識するのはこの両様の意味を含んでいる。すなわち外形はそれと全然似よりのない、性質の違ったものを我々に認識させるのである。・・・ 和辻哲郎 「「自然」を深めよ」
出典:青空文庫