・・・ 短い月日の間に、はげしく推移する情勢に応じて書かれた一九三三年ごろの諸評論には、いそいで刻下に必要な階級文化のための土台ごしらえを堅めようとする著者のたたかいの気迫がみなぎっている。そのたたかいの気迫、抵抗の猛勇な精神は、その情勢の中・・・ 宮本百合子 「巖の花」
・・・それが医学をした花房の医者らしい生活をした短い期間であった。 その花房の記憶に僅かに残っている事を二つ三つ書く。一体医者の為めには、軽い病人も重い病人も、贅沢薬を飲む人も、病気が死活問題になっている人も、均しくこれ casus である。・・・ 森鴎外 「カズイスチカ」
・・・夏の生活は短い。明るい色の衣裳や、麦藁帽子や、笑声や、噂話はたちまちの間に閃き去って、夢の如くに消え失せる。秋の風が立つと、燕や、蝶や、散った花や、落ちた葉と一しょに、そんな生活は吹きまくられてしまう。そして別荘の窓を、外から冬の夜の闇が覗・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
・・・はち切れるような力が語の下からのぞいている。短い描写が驚くべき豊富な人生を示唆する。 ところで自分はどうであろう。強調すべき点は気が済むまでも詳しく書こうとする。そのために空虚な語のはいって来ることには気づかない。従って多くを示唆する少・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
出典:青空文庫