・・・ 石炭殻などを敷いた路は爪先上りに踏切りへ出る、――そこへ何気なしに来た時だった。保吉は踏切りの両側に人だかりのしているのを発見した。轢死だなとたちまち考えもした。幸い踏切りの柵の側に、荷をつけた自転車を止めているのは知り合いの肉屋の小・・・ 芥川竜之介 「寒さ」
・・・のみならず道に敷いた石炭殻も霧雨か露かに濡れ透っていた。僕はまだ余憤を感じたまま、出来るだけ足早に歩いて行った。が、いくら歩いて行っても、枳殻垣はやはり僕の行手に長ながとつづいているばかりだった。 僕はおのずから目を覚ました。妻や赤子は・・・ 芥川竜之介 「死後」
・・・ お千は、それよりも美しく、雪はなけれど、ちらちらと散る花の、小庭の湿地の、石炭殻につもる可哀さ、痛々しさ。 時次郎でない、頬被したのが、黒塀の外からヌッと覗く。 お千が脛白く、はっと立って、障子をしめようとする目の前へ、トンと・・・ 泉鏡花 「売色鴨南蛮」
出典:青空文庫