一 行一が大学へ残るべきか、それとも就職すべきか迷っていたとき、彼に研究を続けてゆく願いと、生活の保証と、その二つが不充分ながら叶えられる位置を与えてくれたのは、彼の師事していた教授であった。その教授は自分・・・ 梶井基次郎 「雪後」
・・・とある書窓の奥にはまた、あわれ今後の半生をかけて、一大哲理の研究に身を投じ尽さんものと、世故の煩を将って塵塚のただ中へ投げ捨てたる人あり。その人は誰なるらん。荻の上風、桐は枝ばかりになりぬ。明日は誰が身の。・・・ 川上眉山 「書記官」
・・・科学と哲学と宗教とはこれを研究し闡明し、そして安心立命の地をその上に置こうと悶いている、僕も大哲学者になりたい、ダルウィン跣足というほどの大科学者になりたい。もしくは大宗教家になりたい。しかし僕の願というのはこれでもない。もし僕の願が叶わな・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
・・・ 上述の如く倫理学の研究にはまず人生の事象についての、倫理的関心と情熱とが先行しなければならぬ。そしてその具体的研究の第一着手は倫理的な問いから発足しなければならぬ。問いはすべての初めである。しかもまた問いはその解決でさえもあるのだ。ハ・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・ しかし、演説の言葉、形式が、百姓には、どうも難解である。研究会で、理論闘争をやるほどのものではないにしろ、なお、その臭味がある。そこで、百姓は、十分その意味を了解することが出来ない。「吾々、無産階級は……」と云う。既に、それが、一・・・ 黒島伝治 「選挙漫談」
・・・なんぞという英物が出て来る、「乃公はそんなら本紀列伝を併せて一ト月に研究し尽すぞ」という豪傑が現われる。そんな工合で互に励み合うので、ナマケル奴は勝手にナマケて居るのでいつまでも上達せぬ代り、勉強するものはズンズン上達して、公平に評すれば畸・・・ 幸田露伴 「学生時代」
・・・んで俊雄の耳へあのね尽しの電話の呼鈴聞えませぬかと被せかけるを落魄れても白い物を顔へは塗りませぬとポンと突き退け二の矢を継がんとするお霜を尻目にかけて俊雄はそこを立ち出で供待ちに欠伸にもまた節奏ありと研究中の金太を先へ帰らせおのれは顔を知ら・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
・・・しかし、私も黙ってはいられなかったから、「お前のあばれ者は研究所でも評判だというじゃないか。」「だれが言った――」「弥生町の奥さんがいらしった時に、なんでもそんな話だったぜ。」「知りもしないくせに――」 次郎が私に向かっ・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・ 東洋協會講演會に於いて、堯舜禹の實在的人物に非ざるべき卑見を述べてより已に三年、しかもこの大膽なる臆説は多くの儒家よりは一笑に附せられしが、林〔泰輔〕氏の篤學眞摯なる、前に『東洋哲學』に、近く『東亞研究』に、高説を披瀝して教示せらるゝ所あ・・・ 白鳥庫吉 「『尚書』の高等批評」
・・・特に数学と音楽とを一ばん大切なものとして研究しました。 その学徒の一人のピシアスという人が、シラキュースに来ておりましたが、それがいつもディオニシアスに反抗しているように睨まれて捕縛されました。ディオニシアスはいきなり死刑を言いわたしま・・・ 鈴木三重吉 「デイモンとピシアス」
出典:青空文庫