・・・もし私が真実を真実として闘えば破れるのか。」「泉川検事のいうことを本当にうけた。俺はもうだめだということを考えた。しかし死を決して真実を守ろうと思った。」二十三日に清水被告は「どうだね、考えたか」という泉川検事に向って答えた。「私は考えた。・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・のからの破れる音が澄んで響いて居る。 菊太は私を見た眼をすぐ祖母にうつして又云い続ける。「去年は草取頃に、婆様にはあ逝かれて、米と桶の銭を島の伯父家に借りさあ行って事うすましやした。悪い時にゃあ悪い事べえ続くもんで、その秋にゃ娘・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・これまでは調和がとれていた故に現われなかった性質が調和の破れるとともに偏狭に現われて来た。自分の内には、自分の運命に対する強い信頼が小供の時から絶えず活らいていたけれども、またその側には常に自分の矮小と無力とを恥じる念があって、この両者の相・・・ 和辻哲郎 「自己の肯定と否定と」
出典:青空文庫