・・・動きのとれなくなった愛欲関係になおひかれて相互の運命を破局に導き、世法の威厳を踏みにじるのはたとい同情すべきであっても、正しいことではない。そこに強き意志と深き英知とを働かして「芸術ある」結末をつけねばならないのである。素よりかような結末に・・・ 倉田百三 「人生における離合について」
・・・まず試みよ。破局の次にも、春は来る。桜の園を取りかえす術なきや。 太宰治 「花燭」
・・・その答えが、余り集約的に、今日の日本の破局的な各方面の事情を反映していることに、解答者自身おどろかざるを得まいと思う。この一つの「何故」への具体的な答えには、農林大臣が米の専売案を語り、それと全く反対に農林省の下級官吏は結束して大会をもち、・・・ 宮本百合子 「石を投ぐるもの」
・・・資本主義の経済破局は売笑婦を殖やすという国際的な事実を土台として、その売笑婦の社会的な扱われかた、売笑婦自身の感情に、日本の封建の尾がつよくひかれているのである。これは売笑婦についての場合にかぎらない。日本のすべての問題にこの二重性がつきま・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
・・・しかし、予期しない波瀾や破局が起った時、そのようにして自分の若さも才能も生活の力も使いへらして来た女のひとが、目の前に見得るのが満天の灰色な空虚でしかないことも、恐ろしいことです。精神的にも、女の自主的な部分が拡大されることは、私たちの生活・・・ 宮本百合子 「現実の道」
・・・を、嫉妬からデスデモーナを殺す悲劇の主人公とは見ず、相互に与えられていた信頼を裏切られた心の破局と理解することもわかる。そういう今日の共感に交えてデスデモーナのオセロにたいする封建的な屈従と畏怖とが、大切な愛をおどおどとさせ、才覚とほんとう・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・根本的な社会変革につれて起る現象の必然性を、社会主義社会建設の総体との関係において発展的にとらえず、消極的にブルジョア文学が一つの社会的破局を扱ったような悲劇、または破局というように表現している。「赤紫島」は、劇中劇で「赤紫島」の革命を・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・つまりより飢えなかったとき、既に畜生道に陥る精神の破局が用意されていたのではなかったろうか。 私どもは、何々という島では、兵士の何割が栄養失調で餓死したという報告を、やつれ果てた復員兵から告げられている。一方に、大小の戦争犯罪人としての・・・ 宮本百合子 「逆立ちの公・私」
・・・ その営利出版は、今なお残って、今度は、モラトリアムその他破局的動揺と結合して、新しい文学者の出発を阻んでいる。 いつの時代にでも、文学を愛し、それを生もうとする者は、金銭ずくではない。それだからこそ、社会労働のうちでも、最も複雑な・・・ 宮本百合子 「作家への新風」
・・・日本を今日の全面的破局に導くために、支配者の用いた暴力は、そのように人間ばなれのしたものであった。野呂栄太郎は、その治安維持法によって殺され、その直接の売りわたし手の査問を担当した事件の裁判に当って、自身もまた同じ悪虐な法律のしめなわにかけ・・・ 宮本百合子 「信義について」
出典:青空文庫