・・・ 第三階級にのみおもに役立っていた教養の所産を、第四階級が採用しようとも破棄しおわろうともそれは第四階級の任意である。それを第四階級者が取り上げたといったところが、第四階級の賢さであるとはいえても、第三階級の功績とはいいえないではないか・・・ 有島武郎 「想片」
・・・自分ばかりが呆気に取られるだけなら我慢もなるが、社外の人に手数を掛けたり多少の骨折をさせたりした事をお関いなしに破毀されてしまっては、中間に立つ社員は板挟みになって窮してしまう。あるいはまた、同じ仕事を甲にも乙にも丙にも一人々々に「君が適任・・・ 内田魯庵 「三十年前の島田沼南」
・・・私はそれを知っているので、いかに愚劣な作品と雖も、みだりにそれを破棄することが出来ない。義務の遂行と言えば、聞えもいいが、そうではない。小心非力の私は、ただ唯、編輯者の腕力を恐れているのである。約束を破ったからには、私は、ぶん殴られても仕方・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・御一読後は、ただちに破棄して下さい。以上。 だいたい、こんな意味の手紙を、その先輩にこっそり出した事がある。愚痴をこぼしてさえ、非国民あつかいを受けなければならなかったのだから、思えば、ひどい時代だった。 そんな手紙を出して、一箇月・・・ 太宰治 「十五年間」
・・・ところがある日その神聖な規律を根底から破棄するような椿事の起こったのを偶然な機会で目撃することができた。いつものように夫婦仲よく並んで泳いでいたひとつがいの雄鳥のほうが、実にはなはだ突然にけたたましい羽音を立てて水面を走り出したと思うとやが・・・ 寺田寅彦 「あひると猿」
・・・ 短歌や俳句が使い古したものであるからというだけの単純な理由からその詩形の破棄を企て、内容の根本的革新を夢みるのもあえてとがむべき事ではないとしても、その企図に着手する前に私がここでいわゆる全機的日本の解剖学と生理学を充分に追究し認識し・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・ほんとうの神秘を見つけるにはあらゆる贋物を破棄しなくてはならないという気がする。 六 日本の春は太平洋から来る。 ある日二階の縁側に立って南から西の空に浮かぶ雲をながめていた。上層の風は西から東へ流れているら・・・ 寺田寅彦 「春六題」
・・・今日では誰も知っている彼の Meudon の佳景を発見したのは自然を写生するために古典の形式を破棄した Franais 一派の画工である。それからずっと上流の Mantes までを探ったのは Daubigny である。今まではその地名さえも・・・ 永井荷風 「夏の町」
・・・ あちらの兵士たちは、これまで日記をつけていたものは破棄するように云われているという事をきいた。それには、それだけの必要があるからのことであろう。火野葦平として自分の書けたことに、作家としての葦平は又感慨なくもないであろう。その感慨を、・・・ 宮本百合子 「地の塩文学の塩」
・・・この賞に当っても、嘗て会員によって推薦された作品が、所謂左翼的立場に立つ作家によって書かれているものであるという理由で、投票破棄になった事実は周知のことである。 もし真に文学の発展を期するのであれば、日本の文学史の上に一つの新たな芸術運・・・ 宮本百合子 「矛盾の一形態としての諸文化組織」
出典:青空文庫