・・・ 池の周囲の磁力測量、もっとも伏角だけではあるが、数年来つづけてやって来て、材料はかなりたまっている。地形によって説明されるような偏差がかなり著しく出ていておもしろいから、いつかまとめておきたいと思いながらそのままになっている。池の断面・・・ 寺田寅彦 「池」
・・・ちょうど自分が観測室内にいた時に起こった地鳴りの際には、磁力計の頂上に付いている管が共鳴してその頭が少なくも数ミリほど振動するのを明らかに認める事ができたし、また山中で聞いた時は立っている靴の底に明らかにきわめて短週期の震動を感じた。これだ・・・ 寺田寅彦 「怪異考」
・・・三年生のときはT先生の磁力測量の結果の整理に関する仕事の御手伝いをしながら生意気にも色々勝手な議論を持ちだしたりした。それを学生のいうことでも馬鹿にしないで真面目に受け入れて、学問のためには赤子も大人も区別しない先生の態度に感激したりした。・・・ 寺田寅彦 「科学に志す人へ」
・・・新星と豊国がその時から結合した。磁力測量に使う磁石棒の長さをミクロンまで精密に測ろうとして骨折った頃にもよく豊国の牛肉を食った。磁石と豊国とがその時から結合した。 解剖学のO教授もよくここの昼食を食いに来ていた。ドイツ生れのO夫人がちゃ・・・ 寺田寅彦 「病院風景」
・・・地球磁力や気象の観測を受け持って来たただ一人の婦人部員某夫人は、男のように短く切りつめた断髪で、青い着物を着ていた。どこか小鳥のような感じのする人で仏語のほかは話さなかったようである。そのほかの若い生物学者や地質学者やみんなまじめで上品で気・・・ 寺田寅彦 「北氷洋の氷の割れる音」
・・・ 卓抜な芸術家は人間的磁力がきついものである。家庭のまわりのものに影響の及ぼさぬ程の熱気とぼしい存在で、巨大な芸術的天分を発揮し得よう筈はなく、それらの人々の子は誇りをもって父を語ることこそ自然である。だが私は、最も人間性の発展、独自性・・・ 宮本百合子 「鴎外・漱石・藤村など」
・・・けれども、作家と時代とのいきさつを、本当に大局からみて、歴史の足どりがその爪先を向けている磁力の方向と、その関連に於て作家一人一人がそれなしに文学は創造もされず存在もしない個々の独自、必然な道をどう見出して行くかということについて、何となし・・・ 宮本百合子 「遠い願い」
・・・強い中心的な磁力が失われたらば、それに吸いつけられていた夥しい人々が自身の生存からも中心力を失い、生活的に低い所へ落ちざるを得なかった。この場合、運動の歴史の若いことは各個人に複雑に作用して、中心力を失った人々はそれを持たなかった以前よりも・・・ 宮本百合子 「ヒューマニズムへの道」
・・・そして、そのように露骨に押しづよく出ると、若い、自分の肉体も心もどんなものかさえ知らない娘達は、異性間の磁力に圧倒され、自分の求めていたのは何であったか、結果はどうなるか、そんなことは一切夢中で、性の渦巻のうちに巻き込まれてしまうのでしょう・・・ 宮本百合子 「惨めな無我夢中」
出典:青空文庫