・・・例えばある牧場の面積を測る事、他所のと比較する事などを示す。寺塔を指してその高さ、その影の長さ、太陽の高度に注意を促す。こうすれば、言葉と白墨の線とによって、大きさや角度や三角函数などの概念を注ぎ込むよりも遥かに早く確実に、おまけに面白くこ・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・さればいよいよ湯上りの両肌脱ぎ、家が潰れようが地面が裂けようが、われ関せず焉という有様、身も魂も打込んで鏡に向う姿に至っては、先生は全くこれこそ、日本の女の最も女らしい形容を示す時であると思うのである。幾世紀の洗練を経たる Alexandr・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・彼は彼の文章の示すごとく電光的の人であった。彼の癇癖は彼の身辺を囲繞して無遠慮に起る音響を無心に聞き流して著作に耽るの余裕を与えなかったと見える。洋琴の声、犬の声、鶏の声、鸚鵡の声、いっさいの声はことごとく彼の鋭敏なる神経を刺激して懊悩やむ・・・ 夏目漱石 「カーライル博物館」
・・・ただ上人が在世の時自ら愚禿と称しこの二字に重きを置かれたという話から、余の知る所を以て推すと、愚禿の二字は能く上人の為人を表すと共に、真宗の教義を標榜し、兼て宗教その者の本質を示すものではなかろうか。人間には智者もあり、愚者もあり、徳者もあ・・・ 西田幾多郎 「愚禿親鸞」
・・・女子の気品を高尚にして名を穢すことなからしめんとならば、何は扨置き父母の行儀を正くして朝夕子供に好き手本を示すこと第一の肝要なる可し。又結婚に父母の命と媒酌とにあらざれば叶わずと言う。是れも至極尤なり。民法親族編第七百七十一条に、子・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・又この事実は、ビジテリアンたちの主張が、畢竟自家撞着に終ることを示す。則ちビジテリアンは動物を愛するが故に動物を食べないのであろう。何が故にその為に食物を得ないで死亡する、十億の人類を見殺しにするのであるか。人類も又動物ではないか。」・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・ きょう本を買うにしても、その判断を示す一冊の本の買いかたに私たちの今日もっている文化の水準も傾向もおのずからあらわれているわけです。 一、ところが、面白いことに、そうして自分たちの文化の水準をまざまざ示して一冊の本でも買う方に、「・・・ 宮本百合子 「朝の話」
・・・彼は知人の采録するところとなって時々世間に出るが、これは友人某に示すにすぎない。前にアルシャイスムとして排した詩、いまの思想を容るるに足らずとして排した歌を、何故になお作り試みるか。他無し、未だ依るべき新たなる形式を得ざるゆえである。これが・・・ 森鴎外 「なかじきり」
・・・とナポレオンは片手を上げて冗談を示すと、階段の方へ歩き出した。 ネーは彼の後から、いつもと違ったナポレオンの狂った青い肩の均衡を見詰めていた。「ネー、今夜はモロッコの燕の巣をお前にやろう。ダントンがそれを食いたさに、椅子から転がり落・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
・・・その証拠は私の製作が示すだろう。 そして私は製作する。できたものをたとえばストリンドベルヒの作に比べてみる。何という鈍さと貧弱さだろう。私は差恥と絶望とで首を垂れる。 微妙な線、こまやかな濃淡、魔力ある抑揚、秘めやかな諧調、そういう・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
出典:青空文庫