・・・大町桂月、福本日南等と交友あり、桂月を罵って、仙をてらう、と云いつつ、おのれも某伯、某男、某子等の知遇を受け、熱烈な皇室中心主義者、いっこくな官吏、孤高狷介、読書、追及、倦まざる史家、癇癪持の父親として一生を終りました。十三歳の時です。その・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・百花撩乱主義 福本和夫、大震災、首相暗殺、そのほか滅茶滅茶のこと、数千。私は、少年期、青年期に、いわば「見るべからざるもの。」をのみ、この眼で見て、この耳で聞いてしまった。二十七八歳を限度として、それよりわかい青年、すべて、・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・広小路に福本亭という講釈場のあった事や、浅草橋手前に以呂波という牛肉屋のあった事などもきいて見たが、それもよく覚えていないようであった。日露戦争の頃に生れた娘には、その生れた町のはなしでも僕の言うことは少し時代が古過ぎたのであろう。現在はど・・・ 永井荷風 「申訳」
出典:青空文庫