・・・クリストは私生児かどうかと言うことである。 武者修業 わたしは従来武者修業とは四方の剣客と手合せをし、武技を磨くものだと思っていた。が、今になって見ると、実は己ほど強いものの余り天下にいないことを発見する為にするものだっ・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・僕の言葉でいうならば第四階級と現在の支配階級との私生児が、一方の親を倒そうとしている時代である。そして一方の親が倒された時には、第四階級という他方の親は、血統の正しからぬ子としてその私生児を倒すであろう。その時になって文化ははじめて真に更新・・・ 有島武郎 「片信」
・・・そういう全く新しい科学的機械的の技術が在来の芸術といつのまにか自由結婚をしてその結果生まれた私生児がすなわち今日の映画芸術である。それが私生児であるがために始めのうちは、父親の芸術の世界でこれを自分の子供として認知する、しないの問題も起こっ・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・の主人公が私生児を育てる為に此の世の波と戦い抜いた姿こそ母性の尊い姿である、暁子にはそれが無いと云う事を論ぜられたようでした。法律的な立場から見て嬰児を死に到らしめた処置が制裁される事は誰しもとやかく云うべきでない事は知っています。然し女で・・・ 宮本百合子 「「女の一生」と志賀暁子の場合」
・・・呪いの鬼子、気違い力の私生児、入れ! 入れ!見てくれ、俺も老いまい? 粉のように飛んで、光のように、人間共にからみつく、あの――ヴィンダー 仕事は分担だ。騒ぐな。ところへ、カラ、駆けて来る。カラ ああ、貴方がた。――その・・・ 宮本百合子 「対話」
・・・ 此は決して郷愁がさせる業でもなければ、感傷主義の私生児でもない。其は確だ。一つでも、その半片でも、人間が受けている、或は受けなければならない苦難を知ると、その一点を中心として四囲に発散している種々の光彩を見、感じる事が出来るように成る・・・ 宮本百合子 「追慕」
出典:青空文庫