・・・とも称すべきものが、これもまたある意味では西鶴の中の科学者の面貌を露出したものと云われるであろう。尤もこの短篇探偵小説における判官の方法は甚だしく直観的要素の勝ったもので解析的論理的な要素には乏しいと云わねばならないが、しかし現代科学の研究・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
・・・しかもこういう意味から見て絵画と称すべき絵画の我邦に存する事があまりに少ないのに驚くのである。 津田君の絵は今非常な速度で変化し発育しつつあるのだから概括的に論ずるが困難であるのみならず、また具体的に一つ一つの作品に対して批評するのも容・・・ 寺田寅彦 「津田青楓君の画と南画の芸術的価値」
・・・第一に客観実在と称するものが物理学体系と独立に存在しうるかどうかが疑問である。また、物理学の系統は実験上の新発見と新概念の構成とによって本質的の進歩を遂げるのであるが、その発見や構成の時間的関係は必ずしも必然的唯一のものが実際に存在したとは・・・ 寺田寅彦 「物理学圏外の物理的現象」
・・・ 漫画と称すべきものの中でいわゆる時事漫画と称するものがある。新聞雑誌に出るのは主としてこれである。これは私の考えている漫画としてはやや純粋を欠くものである。時代と場所の限られたる範囲の興味が高唱されているだけに普遍性を損じやすい傾向が・・・ 寺田寅彦 「漫画と科学」
・・・ 二 連句と音楽 連句というものと、一般に音楽と称するものとの間にある程度の形式的の類似がある事について私は従来もすでにたびたびいろいろな機会に述べたことがあるが、ここでもう一度改めてこの点について詳しく考え直し・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・平民が、学塾を開いて生徒を教え、地面を所有して地代小作米を取立つるは、これを何と称すべきや。政府にては学校といい、平民にては塾といい、政府にては大蔵省といい、平民にては帳場といい、その名目は古来の習慣によりて少しく不同あれども、その事の実は・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
『学問の独立』緒言 近年、我が日本において、都鄙上下の別なく、学問の流行すること、古来、未だその比を見ず。実に文運降盛の秋と称すべし。然るに、時運の然らしむるところ、人民、字を知るとともに大いに政治の思想を喚・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・野蛮の無為、徳川の泰平の如きは、平安と称すべからざるのみならず、かえってこれを苦痛不快と認めざるをえず。その平安の美は煙草の麁葉にひとしきものといいて可なり。 またある人の説に、平安を好むは人情において、あるいは然るに似たりといえども、・・・ 福沢諭吉 「教育の目的」
・・・実に一大事業と称すべし。 然れども難きを見てなさざるは丈夫の志にあらず、益あるを知りて興さざるは報国の義なきに似たり。けだしこの学を世におしひろめんには、学校の規律を彼に取り、生徒を教道するを先務とす。よって吾が党の士、相ともに謀りて、・・・ 福沢諭吉 「慶応義塾の記」
・・・一地方にありて独立独行、百事他人に殊なりと称する人にても、その言語には方言を用い、壁を隔ててこれを聞くも、某地方の人たるを知るべし。今この方言は誰れに学びたりやと尋ぬるに、これを教えたる者なし。教うる者なくしてこれを知る。すなわち地方の空気・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
出典:青空文庫