・・・と、しまいには、季節の移り変わりを、牛女について人々はいうようになったのでした。 牛女の子供は、ある年の春、西の山に現れた母親の許しも受けずに、かってにその商家から飛び出して、汽車に乗って、故郷を見捨てて、南の方の国へいってしまったので・・・ 小川未明 「牛女」
・・・そのうえ光と影の移り変わりは溪間にいる人に始終慌しい感情を与えていた。そうした村のなかでは、溪間からは高く一日日の当るこの平地の眺めほど心を休めるものはなかった。私にとってはその終日日に倦いた眺めが悲しいまでノスタルジックだった。Lotus・・・ 梶井基次郎 「蒼穹」
・・・四季その折々の風物の移り変りと、村の年中行事を、その時々にたのしめるようになったのは、私には、まだ、この二三年以来のことである。 村の年寄りが、山の小さい桐の樹を一本伐られたといって目に角立てゝ盗んだ者をせんさくしてまわったり、霜月の大・・・ 黒島伝治 「四季とその折々」
・・・よく見ればそこにも流行というものがあって、石蹴り、めんこ、剣玉、べい独楽というふうに、あるものははやりあるものはすたれ、子供の喜ぶおもちゃの類までが時につれて移り変わりつつある。私はまた、二人の子供の性質の相違をも考えるようになった。正直で・・・ 島崎藤村 「嵐」
世の中が急に動いてゆく。その動きかたはただ世相の移り変りというような表現で云うよりもっと深いものであり、渦の底は大きいものであることが、私たちの日常に感じられていると思う。日本だけのことでなく、これは世界のことになっている・・・ 宮本百合子 「これから結婚する人の心持」
・・・例えば私なら私という一人の婦人作家が、最近の三四年間における日本の複雑きわまる急速な状勢の移り変りにつれて実際生活の上で経験した事柄というものは、その内容をみると時間では計ることの出来ない程多く深いものを与えている。 それならば、どうし・・・ 宮本百合子 「問に答えて」
出典:青空文庫