・・・の上に外見高くとまりつつ稼ぎつづけで、消耗されてきたのである。 戦争の年々は、私たちすべてに、苛烈な教訓を与えた。個々の作家の才能だけきりはなしてどんなに評価しても、全般にこうむる文化暴圧に対抗するにはなんの力でもなかったことを、まず学・・・ 宮本百合子 「ある回想から」
・・・「さあもう一っ稼ぎだ」 また風呂敷包を両手に下げた引かけ帯の見窄しい母親と並んで、一太は一層商売を心得た風に歩き出す。彼は活溌に左右に眼を配って、若い細君でも出て来そうな家を物色した。一太も母同様、玉子を沢山売りたいと思った。玉子は・・・ 宮本百合子 「一太と母」
・・・たとえば、カニ網梳きという内職は、漁村からはなれた土地の女たちの稼ぎとなっているけれども、浜の漁師のおかみさんたちがそれをしているのは少くとも見たことがない。鰯の加工の仕事などは女が働いているが、そういう加工の仕事のないところの漁家の婦人は・・・ 宮本百合子 「漁村の婦人の生活」
・・・ 欠食児童なんか聞いたこともない。稼ぎてを戦争へ引っぱり出されたので、生きる手段を失い首をくくって死んだ七十の爺さんなんか一人もいない日本だと云いたげな、絵そらごとだ。 資本家地主の専制的な権力をよりあってかためている軍人華族ブルジョア・・・ 宮本百合子 「『キング』で得をするのは誰か」
・・・ ようかわいがったげるさかいな、精だしてお稼ぎや」 桃龍が、笑いもせずもう一遍、「え――、里栄はんの姉妹御ゲン里はんでござい……」 章子は、獅々舞いが子供を嚇すように胸を拳でたたきたたき笑いこけている小婢の方へじりじりよって行っ・・・ 宮本百合子 「高台寺」
・・・肥料さえ買えぬ農村の四苦八苦の生活の中から稼ぎ手の若者を奪いとられて、われわれはどうする? 戦争になったからと云って、三百万の失業者は決してなくならぬ。益々労働条件は悪化し、戦争準備の金輸出再禁止で物価は三割がた上り、肥料の価さえ上った・・・ 宮本百合子 「国際無産婦人デーに際して」
・・・清司や与作を含むA村の農民の生活にとって、こういうさまざまのいりくんだ関係はどんなに日常の制約となっているか、米作と炭やきと日雇稼ぎとはA村の全生活でどういう組合せになっているかというようなことが、じっくりと全篇の基調としてとりあげられたな・・・ 宮本百合子 「作家への課題」
・・・「マルクス主義は論壇で原稿稼ぎに使われるような、そんな生やさしいものではないのである。その理論の命ずるところは必ずプロレタリアートの実践と結びつく。」「この理論と実践との結びつきを、身を以て野呂が、あの健康をもって示したことは、今後のマルク・・・ 宮本百合子 「信義について」
・・・その母を扶けるために金や子供の衣類を稼ぎの中から仕送りして来る淫売婦である母の妹、性的生活は荒々しい生活の裡に露骨にあらわれて、少女のアグネスに恐怖と嫌悪とを植えつけてしまっている。「大人になるとほかの一切の大人がすることをする――性に没頭・・・ 宮本百合子 「中国に於ける二人のアメリカ婦人」
・・・一人の作家が、時流におされて、或る程度日常生活を世俗的に膨脹させてしまうと、そのふくらんだ日暮しを、ころがしてゆくために、執筆は稼ぎとならざるを得ず、稼ぎともなれば、注文に敏感ならざるを得ない。 戦時中、日本の文学者たちが示したおどろく・・・ 宮本百合子 「春桃」
出典:青空文庫