・・・ 何事も、生活感情は同じであります、というならば、少しは穏当である。 ことさらに、映画と小説を所謂「極致」に於いて同視せずともよい。また、ことさらに独自性をわめき散らし、排除し合うのも、どうかしている。医者と坊主だって、路で逢えば互・・・ 太宰治 「弱者の糧」
・・・へのわが寛大の出来すぎた謝辞とを思い合せて、まこと健康の祝意示して、そっと微笑み、作家へ黙々握手の手、わずかに一市民の創生記、やや大いなる名誉の仕事与えられて、ほのぼのよみがえることの至極、フランク、穏当のことと存じます。 幾日か経・・・ 太宰治 「創生記」
・・・しかし、例えば蚯蚓の研究所で鯨の研究をやりたいといったような場合には、ともかくも一応上長官の諒解を得るために、その研究の結果がその研究の目的に直接適合する所以を説明して許可を得るのが穏当である。上長官がよほどの人でない限りあまり勝手な事は許・・・ 寺田寅彦 「学問の自由」
・・・神々の間に起こったいろいろな事件や葛藤の描写に最もふさわしいものとしてこれらの自然現象の種々相が採用されたものと解釈するほうが穏当であろうと思われるのである。 高志の八俣の大蛇の話も火山からふき出す熔岩流の光景を連想させるものである。「・・・ 寺田寅彦 「神話と地球物理学」
・・・ なるほど、物理学では速度の大小というのが正当で、遅速をいうならば運動の遅速とでもいわなければ穏当でないかと思われる。それでもしこれが物理学の教科書か学術論文の中の文句であるとすれば当然改むべきはずであるが、随筆中の用語となると必ず・・・ 寺田寅彦 「随筆難」
・・・しかし、それだから火事は不可抗力でもなんでもないという説は必ずしも穏当ではない。なぜと言えば人間が「過失の動物」であるということは、統計的に見ても動かし難い天然自然の事実であるからである。しかしまた一方でこの過失は、適当なる統制方法によって・・・ 寺田寅彦 「函館の大火について」
・・・てて、可能なるものの中から甲乙丙……等の作業仮定を設けて、これらにそれぞれ相当するPを算出し、また一方この仮定による実際の比較統計の符合の率を算出し、この両者を比較して、その結果から甲乙丙いずれが最も穏当であるかを決定すべきである。 統・・・ 寺田寅彦 「比較言語学における統計的研究法の可能性について」
・・・ こういう大新聞社の経営を少数な資本家の手にゆだねるのは穏当ではあるまい、これはむしろ全国民自身か、少なくもその大部分の共同経営によるものとしなければなるまい。そうするためには経営維持に必要な費用は租税などと類似の方法で一般から集め、記・・・ 寺田寅彦 「一つの思考実験」
・・・に近よるといった方が却って穏当かもしれない。 こういう事を全く考えずに、ただ物理学教科書のみによって物理学を学んでいれば事柄は至極簡単で、太平無事であるが、一と度書物以外に踏みだして実験をするという事になり、始めてありのままの自然に面す・・・ 寺田寅彦 「物理学実験の教授について」
・・・兄の養嗣子の嫁の実家で、家族こぞって行くということも、辰之助から聞いていたので、むしろ遠慮した方が穏当のようにも考えられた。「私も行かれるやらどうやら」お絹も言っていた。 彼女はあいにく二三日鼻や咽喉を悪くして、呼吸が苦しそうであっ・・・ 徳田秋声 「挿話」
出典:青空文庫