・・・、夫も多額の借金を背負い、その後仕末のために、ぼんやり毎日、家を出て、夕方くたびれ切ったような姿で帰宅し、以前から無口のお方でありましたが、その頃からいっそう、むっつり押し黙って、そうして出版の欠損の穴埋めが、どうやら出来て、それからはもう・・・ 太宰治 「おさん」
・・・校正の穴埋めの厭なこと、雑誌の編集の無意味なることがありありと頭に浮かんでくる。ほとんど留め度がない。そればかりならまだいいが、半ば覚めてまだ覚め切らない電車の美しい影が、その侘しい黄いろい塵埃の間におぼつかなく見えて、それがなんだかこう自・・・ 田山花袋 「少女病」
・・・ ちょうど、赤字穴埋め策として立てた政府の官吏減俸案に反対し全国的官吏の未曾有の示威が行われている最中である。「文戦」の分裂があってから十数日だ。 日本の社会一般は歴史的意味を帯びた情勢だった。しかも、この第三回大会は自身独特の・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
出典:青空文庫