・・・その米のストックが乏しいところへ、農民が強制買上供出反対で、米俵をつんで東京、大阪その他の駅に入るべき貨車が、きょうも、明日もと空っぽであるとき、大都市の住民の不安はいかばかりであろうか。重大な事態をひき起すであろう。その重大事態の核心をな・・・ 宮本百合子 「人民戦線への一歩」
・・・ やがて一時半となり、今にも、と待つが、二時になっても目の下の議席は空っぽのままである。地下道を入ったときから一列におかれて傍目もふらず席まで運ばれて来たような傍聴人席にも、どこやら、だれたざわめきが漲って来た。しきりに手洗いに立つひと・・・ 宮本百合子 「待呆け議会風景」
・・・が、そこが空っぽで入れるものがないからという注文であったことが判明した。 本屋は早速見つくろって幾通りかの本をその書架につめたら、金額は四十円を超過して二百円ばかりかかった。しかし、その新邸の主人は、これで大層立派になったと云ってよろこ・・・ 宮本百合子 「見つくろい」
・・・ からからした夏の太陽ばかりがこれらゆがんで小さい人間のいろんな試みの上に高くて、路幅は広くて、真直な行手は空っぽだ。人々はここで何を食べ着るのか。そんな種類の店がいたって少ない。 この裏から東端唯一の大公園ヴィクトリア公園がひろが・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
出典:青空文庫