・・・お互に心持は奥底まで解っているのだから、吉野紙を突破るほどにも力がありさえすれば、話の一歩を進めてお互に明放してしまうことが出来るのである。しかしながら真底からおぼこな二人は、その吉野紙を破るほどの押がないのである。またここで話の皮を切って・・・ 伊藤左千夫 「野菊の墓」
・・・ 正宗氏と鍋井氏の絵を見ると、かなり熱心に自分の殻を突き破る事に努力しているという事が感ぜられる。しかしあまりあせり過ぎては、却って自分にある好い物を捨てて自分にないものを追っかける恐れがありはしないか。画家の絵の転機はやはり永い間・・・ 寺田寅彦 「二科会その他」
・・・この嚢を突き破る錐は倫敦中探して歩いても見つかりそうになかったのです。私は下宿の一間の中で考えました。つまらないと思いました。いくら書物を読んでも腹の足にはならないのだと諦めました。同時に何のために書物を読むのか自分でもその意味が解らなくな・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
出典:青空文庫