・・・内へ持って来て掛けるのは何故かというと、英吉利風の絵なら絵を、相当に描きこなしておって、部屋の装飾として突飛でない、丁度平凡でチョッと好かろうと思ったから買って来ようかと思ったけれども、買って来ませんでした。その人の絵は誰が見ても習った絵だ・・・ 夏目漱石 「模倣と独立」
・・・察するに今度のような突飛な事をしたのは、今に四十になると思ったからではあるまいか。夫が不実をしたのなんのと云う気の毒な一条は全然虚構であるかも知れない。そうでないにしても、夫がそんな事をしているのは、疾うから知っていて、別になんとも思わなか・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・ 話しの種のなくなった様に三人は丸くなってだまって居るうち千世子の心にはいかにも突飛なお伽話めいたものが思いうかんだ。 けれ共千世子はそれを話す事はしなかった。 篤はそんな事に対しての興味はそんなに持って居ない、肇だって初めて会・・・ 宮本百合子 「千世子(三)」
・・・ 自分は奇麗にしずとも美くしいものを見、美くしい裡に生きて居たい千世子が友達に花の様な人のあって欲しいと思ったのはそう突飛な事でもなかった。 千世子が自分から進んで交際をしたいと思うほど美くしいに(は会えなかった。 たった一度千・・・ 宮本百合子 「千世子(二)」
・・・ 翌日の夕刊で、その整理案撤回を東交が要求して、罷業準備の指令を発したという記事をよんで、私達はそれが突飛なことであるというような感銘はちっとも受けなかった。整理案の内容は、既に一般市民に、東交がそう出ることの自然であるという感じを抱か・・・ 宮本百合子 「電車の見えない電車通り」
・・・同じ様な意味で、縞柄とか模様、色彩などがなんとなく同一傾向のものであって、東京の電車の中で見る様な、突飛な服装をしているものはついぞ発見し得ない。強いて云えば京都風というもので統一されてしまっている。 所が、東京は全く雑然としている。お・・・ 宮本百合子 「二つの型」
・・・これだけでは少し突飛な説明で、まだ何ら新しき感覚のその新しさには触れ得ない。そこで今一言の必要を認めるが、ここで用いられた主観なるものの意味である。主観とはその物自体なる客体を認識する活動能力をさして云う。認識とは悟性と感性との綜合体なるは・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・玄関へ出て来た漱石は、私の突飛さにちょっとあきれたような顔をしたが、気軽に同意して着替えのために引っ込んで行った。 今の桜木町駅のところにあった横浜駅に着いたのは、もう十二時過ぎであった。そのころ私はナンキン町のシナ料理をわりによく知っ・・・ 和辻哲郎 「漱石の人物」
出典:青空文庫