・・・結婚、家庭生活について日本の社会通念が枠づけている息ぐるしい家族制度のしがらみ、娘・妻としての女が、人間らしいひろやかさと発展をもって生きたい女性にとって、どんなに窒息的なものであるかを、夫婦の性格的な相剋の姿とともに描き出そうとしている。・・・ 宮本百合子 「あとがき(『伸子』)」
・・・情報局の陸海軍人が出版物統制にあたって、自分たちの書いたものを出版させて印税をむさぼりながらすべての平和、自由を窒息させた。文学報国会が大会を陸海軍軍人の演説によって開会し、出席する婦人作家はもんぺい姿を求められたというようなことは日本の文・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第五巻)」
・・・その時刻にもかかわらず、省線は猛烈にこんで全く身動きも出来ず、上の子をやっと腰かけさせてかばっていた間に、背中の赤ちゃんは、おそらくねんねこの中へ顔を埋められ圧しつけられたためだろう、窒息して死んだ。 この不幸な出来ごとを、東京検事局で・・・ 宮本百合子 「石を投ぐるもの」
・・・をかきながら、自分の文学のリアリズムに息がつまって、午前中小説をかけば午後は小説をかくよりももっと熱中して南画をかき、空想の山河に休んだということは、何故漱石のリアリズムが彼を窒息させたかという文学上の問題をおいても、大正初期の日本文化の一・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
・・・ ところが十四年前日本の軍力が東洋において第二次世界大戦という世界史的惨禍の発端を開くと同時に、反動の強権は日本における最も高い民主的文学の成果であるプロレタリア文学運動をすっかり窒息させた。そして、日本の旧い文学は、これまで自身の柱と・・・ 宮本百合子 「歌声よ、おこれ」
・・・個人主義の開花時代の近代ヨーロッパの文学精神を、日本で窒息させられていた「自我」「主体」の確立の主張の上に絵どる段階から成長して来て、日本の社会現実のうちで自我を存在させ発展させるそのことのためにも、日本ではすべての市民に共通な基本的な人権・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・ 一人の作家の生きる時代の歴史性と、個性的個人的な諸条件とが実にこみ入って絡みあって生じるその人の精神のコムプレックスは不幸な場合には一個の作家を窒息させ死にも至らしめるものだろう。しかし、作家に成長があるとすれば、畢竟はこの自身のコム・・・ 宮本百合子 「今日の文学の諸相」
・・・ 少年の間、彼は全くそういう窒息的な環境に馴らされ、些の反撥も苦悩もなく過し、十六歳の年まで読書さえ母の監視つきであった。性的にも内気で無垢であり、従妹のエマニュエル只一人が愛情の対象であった。「一切金銭の心配からはなれ」息子の処女出版・・・ 宮本百合子 「ジイドとそのソヴェト旅行記」
・・・型にはめるように外から押しつけるのでは、ただ内にある生命を窒息させるばかりです。恋をしてはいけない、女に近づいてはいけない、小説を読んではいけない、芝居を見てはいけない、――要するに生を味わってはいけない! それでどんな人間ができますか。乾・・・ 和辻哲郎 「すべての芽を培え」
・・・また執拗な利己主義を窒息させなければやまない正義の重圧の気味悪い底力も、前者ほど突っ込んではないが、力を入れて描いてある。次の『道草』においても利己主義は自己の問題として愛との対決を迫られている。この作で特に目につくのは、主人公の我がいかに・・・ 和辻哲郎 「夏目先生の追憶」
出典:青空文庫