・・・金のある商人は息子がやがて立身して、より大きな権力者になるように、富農の親父は大地主になった息子を夢みて学校へ入れていたのだった。 一九一七年の「十月」は、ロシアじゅうの学校を、ソヴェト同盟全土の学校を、しっかり自身の階級のものとして掴・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」
・・・彼にとって、工場管理者という自身の地位は、ブルジョア的な考えかたでの立身――成りあがってつかんだ地位ではない。プロレタリアートによって、そこを守れ! と命ぜられた、責任の重い生産における前線の部署である。いかに恥しめられようと、退かない。そ・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・色々の観察を話しかけましたが、庶民的な環境に育って色々の重い因習と戦いながら、人間として向上しようとしてきた女の人は、向上の方向がグラグラしてくると、その向上心そのものが、一つの極めて妥協的な世俗的な立身の方へいつの間にやら流れ込んでしまう・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・そのなかの一人である安倍源基は特高課長、警視総監、内務大臣と出世したが、その立身の一段一段は小林多喜二の血に染められ岩田義道の命をふみ台にしている。天羽英二は情報局長としてあんなに人民の言論と思想、文化の自由を根こそぎ刈った。 これらの・・・ 宮本百合子 「事実にたって」
・・・こういう可能が、社会条件のうちにあれば、才能というものは、ほんとに皆の宝で、自分だけの立身のタネでないことがわかり、そのことで芸術も高められる条件が加わります。 私ども人間の感情表現が、そういう風にして現実に生活の条件によって変るという・・・ 宮本百合子 「社会と人間の成長」
・・・勤労家庭から長男が立身して、「皆を楽にさせた」時代はとうに過ぎているから、そのような経済的根拠に立って知識人となった青年たちの或るものが、「収獲以前」の主人公のように、自分の一身にそんなにもまざまざと反射している社会矛盾を自覚して、思想的に・・・ 宮本百合子 「全体主義への吟味」
・・・猿面冠者の立身物語は、そのような立身をすることのない封建治下の人民に、人間的あこがれをよびさますよすがであった。自分の生涯にはない、境遇からの脱出の物語だった。太閤記と云う名をきいただけで、日本の庶民の伝承のうちにめをさます予備感情がある。・・・ 宮本百合子 「その柵は必要か」
・・・どの作品でも、オオドゥウは寄るべない一人の貧困な少女がこの世の荒波を凌いで、俗っぽい女の立身とはちがう人間らしさの満ちた生活を求めて、健気にたたかってゆく姿を描いているのであるが、最近出版された「マリイの仕事場」は、オオドゥウの人生に対する・・・ 宮本百合子 「知性の開眼」
・・・バルザックが、文筆生活をはじめたのはそれから三年後、二十歳のときであるが、それも決してすらりと行ったわけではなく、父親ベルナールは息子を法律家に仕立てて立身させようと考えた。そしていよいよ事務所まで買いかけたことがわかった時、大柄なずんぐり・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・岩田義道を殺したのも、上田茂樹をとうとう行方不明のままほうむり去ってしまったのも、彼の立身の一段でした。その頃非合法におかれていた共産党の中央委員のなかに、大泉兼蔵、小畑某というスパイをいれ、大森のギャング事件、川崎の暴力メーデーと、大衆か・・・ 宮本百合子 「ファシズムは生きている」
出典:青空文庫