・・・そうして、日本の作物が輓近四五年間に大変進歩したのは、全くこの圏外の競争心の結果ではなかろうかと思われる。 圏外の競争は一方において反撥を意味している。けれどもその反撥の裏面には同化の芽を含んでいる。反撥すると云う事がすでに対者を知らね・・・ 夏目漱石 「文壇の趨勢」
・・・個人的な、一人でも競争者をけおとさなければならない、アナーキスティックな競争心は必要ない条件があります。本当によい労働者、そして本当にいい歌い手であれば、あの男の歌ならみんなが聴いて喜ぶ、あの人をわれらの歌い手にしようじゃないかと、だんだん・・・ 宮本百合子 「社会と人間の成長」
・・・それは明らかであったが、彼女が内心に強い芸術上の競争心を含んでいるらしいのがはる子の興味を牽きつけた。千鶴子の書いたもので読んだのは、彼女の小遣い取りの為、或る小さい刊行物へ圭子を通して載せて貰った漢文から種をとった短い教訓話だけであった。・・・ 宮本百合子 「沈丁花」
・・・これまで勤めと家庭の生活、自分の稽古事は、全然二つのきりはなしたものに扱って来ていた娘さんの気持は、一緒に稽古ごともすることでつまらない見栄だの競争心だのを、もっと集団的な気分にとかされてゆくだろう。 そういうグループの精神にしろ、やは・・・ 宮本百合子 「働く婦人の新しい年」
出典:青空文庫