・・・ 松蔵の家が、貧乏のために、いっさいの道具を競売に付せられたことであります。もとよりなにひとつめぼしいものがなかったうちに、バイオリンが目立ちましたのですから、この松蔵にとってはなによりも大事な楽器を奪い去られてしまいました。そして、バ・・・ 小川未明 「海のかなた」
・・・するとそんな男にでもいろんな借金があって、死んだとなるといろんな債権者がやって来たのであるが、その男に家を貸していた大家がそんな人間を集めてその場でその男の持っていたものを競売にして後仕末をつけることになった。ところがその品物のなかで最も高・・・ 梶井基次郎 「のんきな患者」
・・・それは質屋で質流れの衣類の競売をしている光景らしく判断された。みんな慾の深そうな顔をした婆さんや爺さんが血眼になって古着の山から目ぼしいのを握み出しては蚤取眼で検査している。気に入ったのはまるでしがみついたように小脇に抱いて誰かに掠奪される・・・ 寺田寅彦 「札幌まで」
・・・ると同時に、大革命時代に「没収されていた教会僧院の財産は勿論、或は分割され、或は競売に附せられた貴族の財産も亦今や嚮日とは比較にならない程数多い新所有者の手に帰したのである。従って金銭がブルジョア生活の動力となり、又同時に万人の渇望の対象と・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
出典:青空文庫