・・・ 賀古翁は鴎外とは竹馬の友で、葬儀の時に委員長となった特別の間柄だから格別だが、なるほど十二時を打ってからノソノソやって来られたのに数回邂逅った。 こんな塩梅で、その頃鴎外の処へ出掛けたのは大抵九時から十時、帰るのは早くて一時、随分・・・ 内田魯庵 「鴎外博士の追憶」
・・・緑雨は相応に影では悪語をいっていたが、それでも新帰朝の秀才を竹馬の友としているのが万更悪い気持がしなかったと見えて、咄のついでに能く万年がこういったとか、あアいったとか噂をしていた。 壱岐殿坂の中途を左へ真砂町へ上るダラダラ坂を登り切っ・・・ 内田魯庵 「斎藤緑雨」
・・・これは豊吉の竹馬の友である。『達者でいるらしい、』かれは思った、『たぶん子供もできていることだろう。』 かれはそっと内をのぞいた。桑園の方から家鶏が六、七羽、一羽の雄に導かれてのそのそと門の方へやって来るところであった。 たちま・・・ 国木田独歩 「河霧」
・・・ 桂はここで三度の食事をするではないか、これをいやいやながら食う自分は彼の竹馬の友といわりょうかと、そう思うと僕は思わず涙を呑んだのである。そして僕はきゅうに胸がすがすがして、桂とともにうまく食事をして、縄暖簾を出た。 その夜二人で薄い・・・ 国木田独歩 「非凡なる凡人」
・・・メロスには竹馬の友があった。セリヌンティウスである。今は此のシラクスの市で、石工をしている。その友を、これから訪ねてみるつもりなのだ。久しく逢わなかったのだから、訪ねて行くのが楽しみである。歩いているうちにメロスは、まちの様子を怪しく思った・・・ 太宰治 「走れメロス」
・・・井上唖々さんという竹馬の友と二人、梅にはまだすこし早いが、と言いながら向島を歩み、百花園に一休みした後、言問まで戻って来ると、川づら一帯早くも立ちまよう夕靄の中から、対岸の灯がちらつき、まだ暮れきらぬ空から音もせずに雪がふって来た。 今・・・ 永井荷風 「雪の日」
出典:青空文庫