・・・涙でくしゃくしゃになった目で両親の顔を等分にながめながら飲んでいる。飲んでしまうとまた思い出したように泣き出す。まだ目がさめきらぬと見える。妻は俊坊をおぶって縁側に立つ。「芭蕉の花、坊や芭蕉の花が咲きましたよ、それ、大き・・・ 寺田寅彦 「花物語」
・・・や「角の三等分」の問題とはおのずからちがった範疇に属するものであることは明らかであると思われる。 こういう種類の問題の一例は、おなじみのリヒテンベルクの放電像のそれである。この人が今から百何十年前にこの像を得た時にはたぶん当時の学者の目・・・ 寺田寅彦 「量的と質的と統計的と」
・・・由なからしむるほどの遠見と憂国の誠もなく、事後に局面を急転せしむる機智親切もなく、いわば自身で仕立てた不孝の子二十四名を荒れ出すが最後得たりや応と引括って、二進の一十、二進の一十、二進の一十で綺麗に二等分して――もし二十五人であったら十二人・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・余は夏蜜柑を食いながら、目分量で一間幅の道路を中央から等分して、その等分した線の上を、綱渡りをする気分で、不偏不党に練って行った。穴から手を出して制服の尻でも捕まえられては容易ならんと思ったからである。子規は笑っていた。膝掛をとられて顫えて・・・ 夏目漱石 「京に着ける夕」
・・・かない、いやしくも文明の教育を受けたる紳士が婦人に対する尊敬を失しては生涯の不面目だし、かつやこれでもかこれでもかと余が咽喉を扼しつつある二寸五分のハイカラの手前もある事だから、ことさらに平気と愉快を等分に加味した顔をして「それは面白いでし・・・ 夏目漱石 「自転車日記」
・・・ 照子は、彼等を等分に眺め乍ら、我から興に乗った眼差しで語りつづけた。「小幡には遊べないの。土曜日んなるとね私が云うのよ、貴方も疲れてるだろうから、今日は休んで寝てなさいってね。そして、私が社へ出かけて行って、主人に金下さいって云う・・・ 宮本百合子 「斯ういう気持」
・・・日本葱一本を等分にわけて、お宅には特別にこっちをあげましょうと白い根の方を貰って来たという話もその朝省線の中できいた。 野菜不足は深刻な昨今の不便だが、そこにはいろいろの原因がたたまっているだろうと思う。関東の大水害で野菜が水の下になっ・・・ 宮本百合子 「主婦意識の転換」
・・・役所の規定は「食物は等分に分配すべし」とだけあって、配られたのが骨ばかりだったにしてもそれはその兵士の不運なのだし、ましてそれを噛む顎を弾丸にやられていたとすれば、それこそその兵の重なる不運と諦めるしかない状態なのであった。病院へのあらゆる・・・ 宮本百合子 「フロレンス・ナイチンゲールの生涯」
・・・皆なに等分に分けて上げます。それも誰も、そうせよと教えるのではないのですが、自分独りが楽しむものではないと思っているからです。 その例は家庭に居っても解ります。お客さまがあってお母さんが忙がしいと、子供さん達はみんな手伝います。女の子だ・・・ 宮本百合子 「わたくしの大好きなアメリカの少女」
・・・燈心に花が咲いて薄暗くなった、橙黄色の火が、黎明の窓の明りと、等分に部屋を領している。夜具はもう夜具葛籠にしまってある。 障子の外に人のけはいがした。「申し。お宅から急用のお手紙が参りました」「お前は誰だい」「お表の小使でござい・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
出典:青空文庫