・・・てあわてて嚥み下し物平を得ざれば胃の腑の必ず鳴るをこらえるもおかしく同伴の男ははや十二分に参りて元からが不等辺三角形の眼をたるませどうだ山村の好男子美しいところを御覧に供しようかねと撃て放せと向けたる筒口俊雄はこのごろ喫み覚えた煙草の煙に紛・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
・・・ 始めに小さな包のようなものを筒口へ投り込んで、すぐその上へ銀色をした球を落し、またその上へ、掌から何かしら粉のようなものを入れる。次にチョッキの隠袋から、何か小さなものを出して、火縄でそれに点火したのを、手早く筒口から投げ入れると、半・・・ 寺田寅彦 「雑記(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・また射的をしている人の鉄砲の筒口の正面へ突然顔を出して危うく助かった事もあった。大きくなるに従って物を知りたがり、卓布にこぼれた水が干上がるとどうなるかなどと聞いた。内気でそして涙脆く、ある時羊が一匹群に離れて彷徨っているのを見て不便がって・・・ 寺田寅彦 「レーリー卿(Lord Rayleigh)」
・・・ジェルテルスキーは、それから、母親を五日鶏の箱へ詰めた経験、真直自分の額に向けられた拳銃の筒口を張り飛したので、銃玉が二月の樺の木の幹へ穴をあけた陰気な光景などを、彼の逸話として得た。 一九二九年、ジェルテルスキーは彼の東京で二度目の冬・・・ 宮本百合子 「街」
・・・になった銃の筒口が聖ジェームス公園の緑を青く照りかえして右! 左! 右! 左! オックスフォード広場で、勤帰りを待伏せる春婦が、ショー・ウィンドウのガラス面に自分の顔を、内部にこの商品を眺めつつぶらつき、やがて三十分もするとロンドン・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
出典:青空文庫