・・・ 頭に手を当てて、膝の上を見て、ラジオ欄の「独唱と管弦楽、杉山節子、伴奏大阪放管」という所を見ると、「杉山節子……? そうだ、たしかそんな名前だった。大阪放管? じゃ、大阪からの放送だ」 と、呟いていたが、やがてそわそわと起ち上・・・ 織田作之助 「昨日・今日・明日」
・・・ そこで彼は、土地の軍楽隊に籍を置いたり、けちな管弦楽団の臨時雇の指揮をしたりして、口を糊しながら、娘の寿子を殆ど唯一人の弟子にして「津路式教授法」のせめてものはけ口を、幼い寿子に見出して来たのであった。 ところが、今日、寿子が弾い・・・ 織田作之助 「道なき道」
・・・ 三 管弦楽映画 ベルリンフィルハルモニーにおける「地獄のオルフォイス」と「カルメン」の演奏を写したものであったが、これを見ながら聴きながら考えたことは、自分がベルリンへ行って実地に臨むよりもこうした映画で鑑賞する・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(5[#「5」はローマ数字、1-13-25])」
何年頃であったか忘れてしまったが、先生の千駄木時代に、晩春のある日、一緒に音楽学校の演奏会に行った帰りに、上野の森をブラブラあるいて帰った。 その日の曲目の内に管弦楽で蛙の鳴声を真似するのがあった、それはよほど滑稽味を・・・ 寺田寅彦 「蛙の鳴声」
・・・フォークトはその結晶物理学の冒頭において結晶の整調の美を管弦楽にたとえているが、また最近にラウエやブラグの研究によって始めて明らかになった結晶体分子構造のごときものに対しても、多くの人は一種の「美」に酔わされぬわけに行かぬ事と思う。この種の・・・ 寺田寅彦 「科学者と芸術家」
・・・銀とクリスタルガラスとの閃光のアルペジオは確かにそういう管弦楽の一部員の役目をつとめるものであろう。 研究している仕事が行き詰まってしまってどうにもならないような時に、前記の意味でのコーヒーを飲む。コーヒー茶わんの縁がまさにくちびると相・・・ 寺田寅彦 「コーヒー哲学序説」
・・・しかし、どうもこの管弦楽というものは、客観的分析的あるいは批評的に聴くべきものではなくて、ただこの音の醸し出す雰囲気の中に無意識に没入すべきもののような気がする。そうする事によってこの音楽が本当の意味をもつような気がする。 これが雰囲気・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・この驚くべき聴感の能力のおかげで、われわれは喧騒の中に会話を取りかわす事ができ、管弦楽の中からセロやクラリネットや任意の楽器の音を拾い出す事ができる。 これに反して目のほうでは白色の中から赤や緑を抜き出す事が不可能であり、画面から汚点を・・・ 寺田寅彦 「蓄音機」
・・・半分は管弦楽を主とした洋楽で他の半分は邦楽であった。そのほかにも何かの慈善音楽会というようなものもあって、そんなおりには私にとっては全く耳新しかったいろいろのソロなどを聞く事もできた。 記憶が混雑して確かな事は言われないが、たぶんそうい・・・ 寺田寅彦 「二十四年前」
・・・楽器の音色がかなり違って聞こえても、管弦楽はやはり管弦楽として聞取られるし、長唄はやはり長唄として聞かれる。聞きたくなければ聞流している事も音楽ならばそれほど困難ではない。これは自分が音楽に対して素人であって、日本語に対して玄人であるためか・・・ 寺田寅彦 「ラジオ雑感」
出典:青空文庫