・・・次の箴言を知っていますか。「エホバを畏るるは知識の本なり。」 多少、興奮して、失敬な事を書いたようです。けれども、若いすぐれた資質に接した時には、若い情熱でもって返報するのが作家の礼儀とも思われます。自分は、ハンデキャップを認めませ・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・ 第八十段にディレッタンティズムに対する箴言がある。「人ごとに、我が身にうとき事をのみぞこのめる」云々の条は、まことに自分のような浮気ものへのよい誡めであって、これは相当に耳が痛い。この愚かな身の程をわきまえぬ一篇の偶感録もこのくらいに・・・ 寺田寅彦 「徒然草の鑑賞」
・・・この尊敬すべき大家の謙遜な言葉は今の科学で何事でもわかるはずだと考えるような迷信者に対する箴言であると同時に、また私のいわゆる「化け物」の存在を許す認容の言葉であるかとも思う。もしそうだとすると長い間封じ込められていた化け物どももこ・・・ 寺田寅彦 「化け物の進化」
・・・エーヴがあれだけリアルに描きつつ、そういうような点で母夫人の情熱の内奥に肉迫せず、あすこをどこやらシャンヌの絵を思いおこさせるような色調の箴言的一情景として描くにとどまっているところ、様々の感想を誘われる。作家としてのエーヴが持っている微妙・・・ 宮本百合子 「寒の梅」
・・・多難で煩雑な女の生活の現実の間で、祖父の箴言は常にケーテの勇気の源泉となったように思える。 事実、ケーテ・シュミットはケーテ・コルヴィッツとなっても画業は決して棄てなかった。それどころか、良人カールの良心に従った生活態度とその仕事ぶりと・・・ 宮本百合子 「ケーテ・コルヴィッツの画業」
・・・ ロマンティックに自然を見ることも、それが観念的であり、非現実であることは、自然が箴言的に眺められ語られる場合と同様である。老年の叡智と芸術家としての不撓な洞察が、人間社会生活の現実の細部とその底流を観破ること益々具体的であるという状態・・・ 宮本百合子 「藤村の文学にうつる自然」
出典:青空文庫