・・・家風、主婦の心得、勤勉と節倹、交際、趣味、……」 たね子はがっかりして本を投げ出し、大きい樅の鏡台の前へ髪を結いに立って行った。が、洋食の食べかただけはどうしても気にかかってならなかった。…… その次の午後、夫はたね子の心配を見かね・・・ 芥川竜之介 「たね子の憂鬱」
・・・然るにあらゆる節倹ををしてかようなわびしい住居をしているのはね、一つは自分が日本におった時の自分ではない単に学生であると云う感じが強いのと、二つ目にはせっかく西洋へ来たものだから成る事なら一冊でも余計専門上の書物を買って帰りたい慾があるから・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・かりに帝堯をして今日にあらしめなば、いかに素朴節倹なりといえども、段階に木石を用い、屋もまた瓦をもって葺くことならん。また徳川の時代に、江戸にいて奥州の物を用いんとするに、飛脚を立てて報知して、先方より船便に運送すれば、到着は必ず数月の後な・・・ 福沢諭吉 「教育の目的」
・・・乃木夫人、東郷夫人の貞烈と節倹とは、これらの上流夫人が身を持するにかたく、常に木綿の衣類で通していられたということを、重要な心がけとしてとかれた。 酒と煙草を未成年者に各国とも禁じているのはなぜであろうか。酒ものまず、煙草ものまずという・・・ 宮本百合子 「祭日ならざる日々」
・・・よほど以前にもこの博士の節倹貯蓄に関する法を語った文章を大衆的な雑誌でみたことがあったが、私は一種の感慨をもってその広告を眺めた。林学博士と云えば、農学の一部で、それは自然科学の分野に属す学問上の博士ということであろう。その人が、林学につい・・・ 宮本百合子 「市民の生活と科学」
出典:青空文庫