・・・正倉院の門戸を解放して民間篤志家の拝観を許されるようになったのもまた鴎外の尽力であった。この貴重な秘庫を民間奇特者に解放した一事だけでも鴎外のような学術的芸術的理解の深い官界の権勢者を失ったのは芸苑の恨事であった。 鴎外は早くから筆・・・ 内田魯庵 「鴎外博士の追憶」
・・・「小田のようなのは、つまり悪疾患者見たいなもので、それもある篤志な医師などに取っては多少の興味ある活物であるかも知れないが、吾々健全な一般人に取っては、寧ろ有害無益の人間なのだ。そんな人間の存在を助けているということは、社会生活という上から・・・ 葛西善蔵 「子をつれて」
・・・もっともこの測量には多大の費用がかかるのであるが、それは幸いに帝国学士院や、原田積善会、服部報公会等の財団または若干篤志家の有力な援助によって支弁され、そのおかげで次第に観測資料が蓄積され、その結果はわが国の有為な少壮学者らの手によって逐次・・・ 寺田寅彦 「地図をながめて」
・・・日本でもまれに隠れた篤志な研究者がいて、おもしろい問題をつかまえて、おもしろい研究をしている人はあるようであるが、惜しいことには物理学の第一義的根本知識の正しい理解が欠けているために、せっかくの努力の結果が結局なんの役にも立たぬ場合が多いよ・・・ 寺田寅彦 「物理学圏外の物理的現象」
・・・もし渋柿同人中でこれを試みようという篤志家を見いだすことができれば大幸である。以上はただそういう方面の研究をする場合に役に立ちそうだと思われる方法の暗示に過ぎないのである。 こういうふうに、連句というものの文学的芸術的価値ということを全・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・ゆえに今、帝室より私学校を保護するに、かねて、学者の篤志なるものを撰び、これに年金をあたえて、その生涯安身の地位を得せしめたらば、おのずから我が学問社会の面目を改めて、日新の西洋諸国に並立し、日本国の学権を拡張して、鋒を海外に争うの勢にいた・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・毎日毎日たくさんの女の人たちが篤志看護婦となって前線へ出て行く。彼女も研究所を閉鎖して早速同じ行動に移るべきであろうか。 事態の悲痛さをキュリー夫人は非常に現実的に洞察した。科学者としての独創性が彼女の精神に燃えたった。マリアはフランス・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人」
・・・五ヵ年計画の革命的意味を理解する精力的なプロレタリアートは各々の職場で能率増進の篤志労働団「突撃隊」を組織した。コムソモールは生産部門の全線に自分たちを動員して、党外勤労者と集団的結束をかためた。然し勤労者の中には「十月」以後ソヴェト同盟で・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・さまざまな形で社会主義建設の骨格になり輪となり、起重機となり、鋲となる鉄の美しい力、篤志労働団はその間から叫ぶ。――生産経済プランを百パーセントに! 篤志労働団は叫ぶ。――いや。生産経済プランを一二〇パーセントまで! と。そして、新しい輝く・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・都会の工場から農村手伝いの篤志労働団が、長靴をはいて、麻袋を背負って特別列車にのっかって、八方へひろがった。 同時に、芸術篤志団、劇場労働篤志団が組織された。耕作用トラクターと一緒にひろいソヴェト全土に文化の光をまき散らそうというわけ・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
出典:青空文庫