・・・悪い誤解の一つは江口を粗笨漢扱いにしている。それらの誤解はいずれも江口の為に、払い去られなければならない。江口は快男児だとすれば、憂欝な快男児だ。粗笨漢だとすれば、余りに教養のある粗笨漢だ。僕は「新潮」の「人の印象」をこんなに長く書いた事は・・・ 芥川竜之介 「江口渙氏の事」
・・・筆者の態度が大体極めて粗笨であり、一時的であり、編輯された動機は商売気でも、何等かの意味で日本女性の一九二六年代のグリムプスといえる。その点、私は案外な興味を感じ、これを読んだ多くの書かざる女性、云わざる女性がどんな印象、反省を得たかひどく・・・ 宮本百合子 「是は現実的な感想」
・・・ 面白さが読者大衆から要求されているということを、すぐエロティックなものだのチャンバラだの、くすぐりと見なすのは大衆の感情そのものを実際知らないものであるし、作家らしからぬ粗笨さである。大衆の生活の現実にふれてゆく社会的リアリティーが作・・・ 宮本百合子 「今日の文学に求められているヒューマニズム」
・・・ 大衆といい、民衆といい、昨今は国民といい、極めて粗笨な全体主義でおおうたもののいいかたをし、而もその全体の水準を生活全面で最低まで押し下げておいて、全体という言葉の逆用によって、大衆とその一部としての知識人の進歩性を窒息させているのが・・・ 宮本百合子 「全体主義への吟味」
・・・混む省線の中で、どっと乗りこんで来た専門学校の学生のかたまりなどと、計らずも密着して立ち、揺られてゆくようなとき、それらの若い顔の粗笨な単調な刻みにおどろきを感じたことが一度ならずある。戦争は、におやかであるべき青春の相貌を、このようなもの・・・ 宮本百合子 「図書館」
・・・それとも、紙のわるさにふさわしい屑が出たかということは、粗笨な主観に立って気に入らない本は出ないようにする快味以上に、未来に向って深刻な意義をもっているのである。 宮本百合子 「日本文化のために」
・・・あれは、このひとの粗笨でない心の或るリズムを語っているように感じた。しかし、一人の人としてのうまみというようなものが、多難多岐な客観的局面をどう展開させ得るだろうか。二つのことは常に必ずしも一致し得ないことを、過去の歴史も多くの実例で語って・・・ 宮本百合子 「待呆け議会風景」
出典:青空文庫