・・・その時譲りを受けたるヘンリーは起って十字を額と胸に画して云う「父と子と聖霊の名によって、我れヘンリーはこの大英国の王冠と御代とを、わが正しき血、恵みある神、親愛なる友の援を藉りて襲ぎ受く」と。さて先王の運命は何人も知る者がなかった。その死骸・・・ 夏目漱石 「倫敦塔」
・・・猫の精霊ばかりの住んでる町が、確かに宇宙の或る何所かに、必らず実在しているにちがいないということを。 萩原朔太郎 「猫町」
・・・生れは何処かと聞くと、月か瀬の者だというので余は梅の精霊でもあるまいかと思うた。やがて柿はむけた。余はそれを食うていると彼は更に他の柿をむいでいる。柿も旨い、場所もいい。余はうっとりとしているとボーンという釣鐘の音が一つ聞こえた。彼女は、オ・・・ 正岡子規 「くだもの」
人物 精霊 三人 シリンクス ダイアナ神ニ侍リ美くしい又とない様な精女 ペーン マアキュリの長子林の司こんもりしげった森の中遠くに小川がリボンの様に見える所。春の花は一ぱいに咲・・・ 宮本百合子 「葦笛(一幕)」
・・・希望の精霊は、大気とともに顫う真珠の角笛を吹く……」 けれども、そう書き終るか終らないうちに、苦痛の第一がやって来た。彼女は、幸福に優しく抱擁される代りに、恐ろしく冷やかに刺々しい不調和と面接し、永い永い道連れとならなければならなかった・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・ この職人衆のリアリスティックな場面に対して、二組の恋人たちが、森の中で精霊たちのいたずらにあってうきめをみるおかしみが、巧みに配置されている。しかし、きょうのわたしたちは、「真夏の夜の夢」の変化の多様さ、飽きさせなさの間にやっぱりルネ・・・ 宮本百合子 「真夏の夜の夢」
・・・そこでこの用法が神にまで押しひろめられて、父と子と聖霊が神の三つのペルソナだと言われる。しかるに人は社会においておのおの彼自身の役目を持っている。己れ自身のペルソナにおいて行動するのは彼が己れのなすべきことをなすのである。従って他の人のなす・・・ 和辻哲郎 「面とペルソナ」
・・・釈尊やイエスはこれを解いて、多くの精霊を救う。この救われたる衆生が真の人生を現わしたか。救われずして地獄の九圏の中に阿鼻叫喚しているはずの、たとえば歴山大王や奈翁一世のごとき人間がかえって人生究竟の地を示したか。これは未決問題である。宗教の・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫