上 余が博士に推薦されたという報知が新聞紙上で世間に伝えられたとき、余を知る人のうちの或者は特に書を寄せて余の栄選を祝した。余が博士を辞退した手紙が同じく新聞紙上で発表されたときもまた余は故旧新知もしく・・・ 夏目漱石 「博士問題とマードック先生と余」
・・・見ると腹案の不充分であったためか、あるいは言い廻し方の不適当であったためか、そのままではほとんど紙上に載せて読者の一覧を煩わすに堪えぬくらい混雑している。そこでやむをえず全部を書き改める事にして、さて速記を前へ置いてやり出して見ると、至る処・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・三角形の幾何学的性質を究めるには紙上の一小三角形で沢山であるように、心霊上の事実に対しては英雄豪傑も匹夫匹婦と同一である。ただ眼は眼を見ることはできず、山にある者は山の全体を知ることはできぬ。此智此徳の間に頭出頭没する者は此智此徳を知ること・・・ 西田幾多郎 「愚禿親鸞」
・・・口頭の談論は紙上の文章の如し。等しく文を記して同一様の趣意を述ぶるにも、其文に優美高尚なるものあり、粗野過激なるものあり、直筆激論、時として有力なることなきに非ざれども、文に巧なる人が婉曲に筆を舞わして却て大に読者を感動せしめて、或る場合に・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・ 人間処世の権理に公私の区別ありて、先ず私権を全うして然る後、公権の談に及ぶべしとの次第は、かつて『時事新報』の紙上にも記したることなるが、そもそもこの私権の思想の発生する事情は種々様々なれども、最第一の原因は、本人の自ら信じ自ら重んず・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・について、私たちの心には、計らずもつい四日前、朝日新聞紙上によんだ一つの記事が思いおこされた。それは「偽装の魅力『国民戦線』」という見出しの記事であった。「与党工作の舞台裏」で楢橋氏が首相を動かしているいきさつが解剖され、極めて興味あるくだ・・・ 宮本百合子 「一票の教訓」
・・・の印象を読売紙上で書いた時、或る人があなたは日本の婦人作家中最もインテレクチュアルな作家であり、作品中に自分をあらわさぬ、という意味の意見を述べたのを引用していました。けれども果してそうでしょうか。作家がそのようにあり得るものでしょうか? ・・・ 宮本百合子 「含蓄ある歳月」
・・・そのものはあるいは新聞紙上によみがえり闊歩している徳川時代の形容詞とともに、かえって強まっているかもしれない。ある役所にタイピストが十何人か働いていた。戦争と共に、戦争に関係のふかいその役所では仕事が非常にいそがしくなって来た。それと同時に・・・ 宮本百合子 「祭日ならざる日々」
・・・の元検査掛の被告竹内景助が、他の十一名の被告たちと同じ発言をしないで、直接取調べにあたった検事たちが、きょうの公判廷に姿を見せていないことをいぶかりくりかえして、係検事たちの出廷を求めた事実は翌日の各紙上にもつたえられた。三鷹事件に連座した・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・国際局が、ソヴェト共和国に対する戦争勃発の際文学者は如何なる態度をとるべきかについて、世界の著名な作家の間から集めた意見は、曾てイズエスチャ紙上に掲載されたところである。 外国支部の指導において国際局は、プロレタリア作家乃至その団体の右・・・ 宮本百合子 「ニッポン三週間」
出典:青空文庫