・・・と立ったり、居たり、歩行いたり、果は胡坐かいて能代の膳の低いのを、毛脛へ引挟むがごとくにして、紫蘇の実に糖蝦の塩辛、畳み鰯を小皿にならべて菜ッ葉の漬物堆く、白々と立つ粥の湯気の中に、真赤な顔をして、熱いのを、大きな五郎八茶碗でさらさらと掻食・・・ 泉鏡花 「葛飾砂子」
・・・ ところが、四五日たったある朝の新聞を見ると、ズルチンや紫蘇糖は劇薬がはいっているので、赤血球を破壊し、脳に悪影響がある、闇市場で売っている甘い物には注意せよという大阪府の衛生課の談話がのっていた。 私は「千日堂」はどうするだろうか・・・ 織田作之助 「神経」
・・・畑とも庭ともつかない地面には、梅の老木があったり南瓜が植えてあったり紫蘇があったりした。城の崖からは太い逞しい喬木や古い椿が緑の衝立を作っていて、井戸はその蔭に坐っていた。 大きな井桁、堂々とした石の組み様、がっしりしていて立派であった・・・ 梶井基次郎 「城のある町にて」
あるとき、三十疋のあまがえるが、一緒に面白く仕事をやって居りました。 これは主に虫仲間からたのまれて、紫蘇の実やけしの実をひろって来て花ばたけをこしらえたり、かたちのいい石や苔を集めて来て立派なお庭をつくったりする職業・・・ 宮沢賢治 「カイロ団長」
・・・――或る日、子供は畑から青紫蘇の芽生えに違いないと鑑定をつけた草を十二本抜いて来た。それから、その空地のちょうど真中ほどの場所を選んで十二の穴を掘った。十二の穴がちゃんと同じような間を置いて、縦に三つ、横に四側並ぶようにと、どんなに熱心に竹・・・ 宮本百合子 「雨と子供」
・・・「そうそう、私がお暇いただく三日ほど前にお国の母様が、東京さあ嫁づいて居なさる上の娘さんげから送ってよこしたちゅうて紫蘇を細あく切って干た様なのをよこしなすったんですがない、瓶の蓋が必(してあきませんでない又、東京さ、たよりして、ど・・・ 宮本百合子 「農村」
出典:青空文庫